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戦争と和解の日英関係史 [編著]小菅信子、ヒューゴ・ドブソン

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2011年08月07日

[ジャンル]歴史 国際

表紙画像


■共有できる価値観の深化を

 英国メディアは、ヨーロッパ戦勝記念日(5月8日)と対日戦勝記念日(8月15日)の報道姿勢が異なっている。前者には回顧、和解、郷愁、祝賀の四つがあり、後者にはそれが薄い。戦勝記念日50年の1995年と60年の2005年を比べると、それでも次第に対日戦勝記念日にも、この四つが見えてくるようになったという。憎悪や敵対感情を持つ層が減ったのだ。
 本書は日英和解史を専門とする研究者、小菅信子氏の意欲と熱意で生まれた書だとわかるが、世代の異なる12人の日英の研究者がそれぞれの分野を通して戦争の和解がどのような歴史的推移を辿(たど)っているか、あるいは英国人の怒りをかきたてている捕虜虐待の事実の検証や、その背景などを丁寧に解説している。論者の一人が指摘するように、和解にはモデルがなく、ゆっくりと時間をかけて進める以外にないとの思いが共通点だ。日本側の論者が、なぜあのような虐待(例えば泰緬鉄道建設事件)が起こったかを軍事組織にメスを入れる一方で、当時英国が自国捕虜への残虐行為をアジア人への残虐行為の歴史を持っているがゆえに、表だって批判できなかったとの論点も示されている。
 英国側にとっても、ドイツとの和解はありえても、「(日本は)国際社会のなかにふたたび招き入れることの最後までできない国」「日本人はつねに『好きになるのが難しい』人々」であり、今なお複雑な感情だと明かす。
 本書は英国でも刊行されているが、とにかく未(いま)だなお双方には心底からのコミュニケーションが不足しているというのが結論になる。英国側論者が、日英両国とも日米や英米のような関係を決して作れないのを前提に、しかし日英が共有できる価値観は数多くあり、それを深化させていくことが重要との論が最も説得力をもっている。お互いに自己満足と独善を避けたいとの編者の提言がみずみずしい。
    ◇
 法政大学出版局・5460円/こすげ・のぶこ 山梨学院大教授。Hugo Dobson 英・シェフィールド大教授。

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