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FBI美術捜査官―奪われた名画を追え [著]ロバート・K・ウィットマン、ジョン・シフマン

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2011年08月21日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■大芝居打ち、逮捕より作品奪還

 これが映画や小説ではない現実に起きた話だけに面白い。現実も捨てたものではない。なんて呑気(のんき)なことを言っているが、本書は歴史上類を見ない名画窃盗事件の火中に飛び込んだFBI美術犯罪捜査官で、百戦錬磨の知的駆け引き術で窃盗団の一味をじらしたり追い込んだりするいかがわしい美術商を演じた男の回想録である。
 暗黒街とコネクションを持ち、盗まれた絵画を仲介して金にしようとたくらむ2人のフランス人相手に、アメリカの美術館から盗まれたフェルメールとレンブラントをなんとか回収しようと、ダリ、クリムト、オキーフなど6点の贋作(がんさく)絵画を麻薬ディーラーに売る現場を見せる大芝居を打つ。交渉はマイアミの船上。2人のフランス人以外、船上の人物(子分もビキニの美女も船長も給仕も)全員が、実はFBIの潜入工作員だ。
 目的は逮捕ではない。本命作品を如何(いか)に回収するかが本書のメーンテーマだけれど、そう簡単に解決しちゃ面白くない(失礼)。取引や会議の舞台はマイアミ、パリ、マドリード、マルセイユ、バルセロナ……と転々とする。大西洋をはさんで「官僚主義と縄張り争い」が熱を帯びる。美術品が回収された暁には英雄気取りで新聞の報道写真に載りたいために、警察のお偉方が画策などする人間丸出しがまた面白い。
 FBIは言ってみれば明智小五郎だ。怪人二十面相も白昼堂々と美術品を盗むが、本書の怪人は二十面相のように美術を愛してはいない。単に金銭が目的だ。まさかオークションに掛けるわけにもいかない。ヤミで売ると市場価格の10%で取引される。逮捕されたって、ただの窃盗罪で刑期は3年くらいである。本文で、窃盗犯が語る盗みの手口を公開する場面があるが、まるで映画を見ているようで、その計画と行動の緻密(ちみつ)さと格好よさに自分がどちらの味方かわからなくなりそう。
    ◇
 土屋晃・匝瑳(そうさ)玲子訳、柏書房・2625円/Robert K.Wittman 元FBI捜査官▽John Shiffman 新聞記者。

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