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ふたつの故宮博物院 [著]野嶋剛

[評者]楊逸(作家)

[掲載]2011年08月21日

[ジャンル]歴史 人文

表紙画像

■中国史を反映する分裂した文物

 中国には、故宮博物院が二つある。一つは北京、一つは台北に。私はその両方とも九〇年代に訪れたことがある。
 台北で清明上河図と翠玉(すいぎょく)白菜を見て大いに興奮した。展示品の多くは通常数カ月ごとに替えることになっており、六十八万点もある収蔵品は一回りするのには数年かかるだろう。計画なしに行って、狙いの名品に出会えることは、奇跡に近い。
 一方北京の方は、三回行っていずれも工事中に遭い中に入れず、外観しか見ていない。その建物こそが北京故宮の最たる文物だと言われていることを本書で知り、残念な気持ちが少し癒やされた。
 同じ中華文明の文物だけを収蔵、展示するための博物館が、しかも全く同じ名前で、なぜ大陸と台湾とに二つも存在するのか、甚だ不思議なことである。ジャーナリストである著者も初めて故宮を訪れた学生時代からその不思議さに引っかかっていたという。二〇〇七年に台北特派員になったのを機に、故宮の歴史に関わる名だたる関係者を取材し続け、大陸台湾の間を飛び回って、得た貴重な材料をもとに本書を書き上げた。
 辛亥革命後、一九二五年から始まった博物館としての故宮は、四九年に中国が大陸と台湾とに分裂したことで、二つになった。以来、中台関係に影響されつつ、それぞれの体制下でも、常に政治運動の的にされてきた。その足跡はこのおよそ九十年の中国史を生き写ししているようにも思われる。
 著者は、政治・外交という独自の視点からこの歴史を辿(たど)り、そこに隠された権力者の思惑及び文物が持つ、「中国ならではの」政治的な意義をえぐり出そうとしている。
 果たして、分裂した国ないし博物館は、統一する日が来るのか。今後も故宮から目を離せない。が、それよりも幾度も挫折した故宮の「日本展」が、一日も早く東京で見られることを願う。
    ◇
 新潮選書・1260円/のじま・つよし 68年生まれ。朝日新聞記者。著書に『イラク戦争従軍記』。

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