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世界の夢の本屋さん [著]清水玲奈、大原ケイ

[評者]荒俣宏(作家)

[掲載]2011年08月21日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■観光客まで引きつける老舗書店

 西洋の老舗書店というと、古本の墓場か中世の牢獄かと見誤るような老建築を連想するかもしれない。しかし本書を見てびっくり、これは夢のように美しい店内を紹介する写真集であり、著者2人が女性というところも、男性マニアの作りそうなかび臭い書店ガイドとは異なる。
 まず書店の選び方からしてファッショナブルだ。
 たとえば創業250年の大老舗ヘンリー・サザラン(ロンドン)は、稀覯本(きこうぼん)目白押しなのに誰でも気軽に入れ、高価な本も手にできるポリシーのすばらしさを紹介する。
 名店が多いパリ。モネの大作『睡蓮(すいれん)』が見られるチュイルリー公園内の園芸書専門店ジャルダン書店を取り上げている。庭園の建物を「庭園文化を発信する書店」に改造する企画は、国有建造物センターというお役所が立てた。女性店長の尽力で、今は庭園同好会の溜(たま)り場である。
 本書の見どころは、本を宝飾品のように展示するイタリアの本屋さんだろう。これらに比べたら、日本のそれは残念ながら下町の雑貨屋レベルだ。
 本を探して携帯メールに入荷を知らせてくれるメル・ブックストア。市場跡地の再開発として地下ガレージに開業したカフェ・レッテラリオ・ローマは文学書の店だが、図書館とカフェバーが併設され、イベントも楽しめる。パラッツォ・ロベルティ書店やアラルコ書店などは建物自体が必見といえる観光名所だ。
 オランダも市所有の教会を有効活用すべく巨大な「本の神殿」セレクシス・ドミニカネンを開業。人口12万の町に年間80万人を呼ぶ本屋となった。
 町興(まちおこ)しの主役となった書店はどこも、「夢」を追求している。出版不況に苦しむ日本には、大きな衝撃だろう。
 ただ、本マニアのおねだりが許されるなら、各写真にも粋な説明書きを付けてほしかったなあ。
    ◇
 エクスナレッジ・3990円/しみず・れいな ジャーナリスト。おおはら・けい 文芸エージェント、ライター。

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