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服部真澄「天の方舟」書評 金で変わる女性描く「悪女物」

評者: 田中貴子 / 朝⽇新聞掲載:2011年08月21日
天の方舟 著者:服部 真澄 出版社:講談社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784062170581
発売⽇:
サイズ: 20cm/523p

天の方舟 [著]服部真澄

 金は低きに流れない。金は金のある方へと流れるのである。ODA(政府開発援助)にも、その法則は当てはまる。途上国援助の名の下で、億単位の贈収賄というブラックマネーが動くのだ。そうした金の濁流を20年以上泳ぎ続けた経営コンサルタントの逮捕シーンから、物語は始まる。
 彼女の名は黒谷七波。エリート大学の垢(あか)抜けない学生が、貧困からの脱出を目指して飛び込んだ世界がODAだった。キャバクラ嬢時代、ふと耳にした「金の集まる裏の世界」で、彼女はその手腕を振るう。そしてこう呟(つぶや)くに至る。「おいしいですね、ODAは」
 何しろ取材が綿密である。その上、矢継ぎ早に展開するストーリーは、私のような経済オンチでも十分楽しめた。
 また本書は、一人の女性が金を通じてどんどん姿を変えてゆくという「悪女物」として読むこともできる。しかし、ある大事件がもとで、七波の中に葛藤が芽生える。そして驚愕(きょうがく)のラストが……。
 一気読み確実の一冊だ。
    ◇
 講談社・1995円