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本音で語る沖縄史 [著]仲村清司

[評者]柄谷行人(哲学者)

[掲載]2011年08月28日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■複眼的視点、世界史の中で通観

 昨年まで普天間基地の移転をめぐる騒動があったことは、震災後に忘れられている。しかし、近い将来、沖縄の問題がもっと深刻な争点になることはまちがいない。これは、その危険が明らかなのに、事故が現実に起こるまでは、それを見ないできた原発の問題と似ている。歴史的に、沖縄の問題は、中国、日本、そして、ペリー来航以後はアメリカがからんでいる。別の観点からいうと、日本、中国、アメリカとの間に対立が生じるとき、それは必ず沖縄(尖閣諸島もふくめて)の問題にかかわるのである。
 沖縄の問題を考えるためには、その歴史を知らなければならない。戦後の米軍基地、戦争末期の事件、明治時代の琉球処分、明・清朝と薩摩に二重帰属した琉球時代、さらに、それ以前の、アジアとの交易によって自立的な地域世界を築いた時代に関して、いろんな本があり、くわしい研究もある。しかし、全体として沖縄の歴史を世界史の中において通観する、しかも平易に書かれた本を探そうとすると、難しい。そのような要望を満たす本として、私は本書を推薦したい。
 著者は「沖縄人二世」として大阪に育ち、中年になって沖縄に渡り住むようになった人である。たぶん、そのことが本書に、ユーモラスで複眼的な視点をもたらしている。沖縄の困難はたんに外から来るのではない。たとえば、琉球王朝は薩摩藩に支配される一方、他の島(宮古・八重山など)を苛酷(かこく)に支配してきた。そのため、琉球王朝の滅亡を歓迎する人たちがいたし、また、今も沖縄人は一体的となりにくい。「歴史に学ぶとすれば、沖縄に残された選択肢は、まことに険しい道のりではあるものの、やはり『自立』に向けて自らの将来像を描く道を模索するほかないのではないか」と、著者はいう。沖縄の「自立」のためには、「本音で語る」歴史を踏まえなければならない。
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 新潮社・1470円/なかむら・きよし 58年生まれ。96年に那覇市に移住。作家、沖縄大学非常勤講師。

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