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わが外交人生 [著]丹波實

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2011年09月04日

[ジャンル]政治 ノンフィクション・評伝 国際

表紙画像

■歴史的証言に資料的価値高く

 著者は1962年に外務省入省、2002年に退官するまでの40年間、外交畑の第一線に立ち続けた。その間の自らの動きを回顧したのが本書だが、幾つかの歴史的証言もあり、資料的価値も高い。
 20世紀後半の日本外交は、米国との同盟を軸に対ソ連・ロシア、中国との関係が模索されたのだが、立場は一貫していて「つねに筆者の動機は『国益』である」という。80年前後のソ連のアフガン侵略など冷戦激化時に、米国は防衛費増大を求めてきた。その折、著者は「丹波メモ」を作成、関係方面に配布している。日米安保があってこその経済的繁栄だとの内容である。日米安保は「憲法第九条に象徴される平和国家を担保している」との著者独自の見解は、今も不変だと強調する。
 圧巻は国連局長時代のPKO5原則をまとめる経緯の詳述だ。それ以後の20年間の日本のPKO参加の実績は自らの国会答弁が正しかったと誇る。さらに米英仏の国連担当幹部と会談して、初めて国連安保理の改革を訴えたのも自慢の一つとする。この辺りの描写は、外交官の回想録にしばしばみられる歴史的自賛の筆調ともいえるが、現実にこうして歴史がつくられてきたと分かれば、首肯できる。
 もともと、ソ連・ロシア外交の専門家でもある。すでに著者は『日露外交秘話』で自らの体験を語っているが、あえて後輩の外交官に語っておきたいのか、1章を設けて対ロ外交の私見をまとめている。ソ連は「遠大かつ悲劇的な実験」のあげくに再びロシアに戻った。そのロシアも北方四島に関してこのところ変化球を投げているから注意するようにと諭し、自らが橋本龍太郎首相のもとで関わったクラスノヤルスク会談について触れているのがモデルになるという意味なのだろう。
 出身地北海道への情感、愛読書がドイッチャーの『トロツキー』という知性。それも外交官の資質なのであろう。
    ◇
 中央公論新社・1890円/たんば・みのる 38年生まれ。外務審議官、駐ロシア大使などを務めた。



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