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昭和の流行歌物語―佐藤千夜子から笠置シズ子、美空ひばりへ [著]塩澤実信

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2011年09月04日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■誰もわからないヒットの条件

 好みからいうと「流行歌」というより「歌謡曲」かな? でも、「流行歌」を「歌謡曲」に言い換えたのは戦時中のおカミだそうだ。
 「歌は世につれ、世は歌につれ」ながら時代の歌は現実の人の心の飢えや、どろどろした情念を写実的にリアルに描いたかと思うと、虚構の世界を設定して時空を非日常的な想像の中でうんと飛翔(ひしょう)させて、自由に夢や愛と戯れながら遊ばせてくれる。どの歌も世相を反映しているがどこか仮想じみているのが流行歌だ。そして気がついたらわれわれは物語の中の主人公になってしまっている。
 流行歌によって現実はペロッと裏返されて虚構化されてしまう。その最たるものが軍歌でまるで大本営作詞かと思わせる歌もある。しかし歌い継がれるのは当局推奨の勇ましい歌ではなく、悲壮感あふれる短調の調べだった。
 歌が先か世が先か知らないが流行歌の運命を仕切るのは全てレコード会社の商業的思惑で、スターダムに乗るのも凋落(ちょうらく)するのも売れる売れないの一点で決まる。これは歌手だけではない、作詞家、作曲家もこの運命からは逃れられない。本書の著者はそんな現場の修羅場をまるで見てきたように語る。本書には著者と著名音楽家たちとのツーショット写真がたくさん掲載されているが、歌が生まれ、ヒットする現場に入りこんで描いたルポだけに臨場感がある。
 本書は流行歌が物語る立派な昭和史である。そんな昭和の時代を走り抜けたのが女王・美空ひばりで、人気ナンバーワンは「青い山脈」。だけど激動の昭和史の代表的国民歌の筆頭が、なんと歌手では素人の渡哲也の「くちなしの花」だというから驚く。この歌を聴いた石原裕次郎が「もしヒットすれば銀座を逆立ちして歩く」と豪語したように、ヒットの絶対条件は誰もわからないのだ。どうもヒット曲は「社会的条件」と関係がないらしい。
    ◇
 展望社・1995円/しおざわ・みのぶ 日本出版学会会員。著書に『出版社の運命を決めた一冊の本』など。



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