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ゲーム理論による社会科学の統合 [著]ハーバート・ギンタス

[評者]山形浩生(評論家)

[掲載]2011年09月04日

[ジャンル]人文

表紙画像

■多くの学問統合、自信満ちた構想

 社会科学の統合とは何と強気な。アシモフの未来SFには人類史の将来を予測する、歴史心理学なる統合人間科学が登場するが、ついにそれが実現……とまではいかない。が、著者はゲーム理論がその基盤となると断言するのだ。
 すごいぜ、と本文を開くと、いきなり細かい式や証明がずらずら並んで涙目だが、とりあえずは飛ばしても大丈夫。基本的に著者は、合理的個人の相互作用を描くゲーム理論モデルを使えば、各種の基本的概念が基礎付けられることを示す。後半の章でそれを組み合わせた複雑な社会事象の説明を例示。そして十二章以下で、統合に向けての大きな道筋をいくつか素描してみせる。
 統合対象分野は、生物学、心理学、経済学、社会学等とやたらに広い。読む側にとってもハードルは高めだが、その大胆な構想力は爽快だ。著者がそこに見る共通の枠組みは明確で説得力があるし、その可能性は胸躍るものがある。
 一方で著者は、多くの学問分野がときに事実の観察と説明を軽視し、教条主義や理論的美しさにとらわれて無力化していると批判する(特に社会学には手厳しい)。また偏狭な縄張り根性も蔓延(まんえん)しているのは、ぼくたちも日々目にする通り。だが著者は、少なくとも理論的な可能性については楽観的だ。
 既存知識を教えるだけの本や夢物語をふりまくだけの本は多いが、おぼろげとはいえ未知の理論体系を具体的に描き出してくれる本は貴重。著者の夢見る統合が実現するかは、皮肉屋の評者は少々懐疑的ながら、まずはお手並み拝見だ。ごく一部でも実現したらすごい。ただしそれを享受するには、前半の数式にも挑まないと……が、その点は訳者解説にも勉強の指針があって親切。翻訳はきまじめだが正確だし、著者の書評をコラム的に入れた読者サービスもうれしい。
    ◇
 成田悠輔・小川一仁・川越敏司・佐々木俊一郎訳、NTT出版・5880円/Herbert Gintis 40年生まれ。



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