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これが見納め―絶滅危惧の生きものたち、最後の光景 [著]ダグラス・アダムス、マーク・カーワディン

[評者]斎藤環(精神科医)

[掲載]2011年09月11日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■絶滅危惧種をめぐる珍道中記
 本書は、絶滅危惧種をめぐる珍道中記である。
 スラプスティックSFの一大傑作『銀河ヒッチハイク・ガイド』の著者であるダグラス・アダムスが、動物学者マーク・カーワディンとともに世界中の絶滅危惧種を探訪する。原著の出版は一九九〇年、英米では広く読まれたこの名著が今まで翻訳されなかったのは不可解なことだ。「SF作家」の肩書が邪魔したわけではないと信じたいのだが。
 とりあげられる動物はアイアイ(マダガスカル)、コモドオオトカゲ(インドネシア)、マウンテンゴリラとキタシロサイ(ザイール=現コンゴ民主共和国)、ヨウスコウカワイルカ(中国)、ロドリゲスオオコウモリとモーリシャスの固有種の鳥たち、などなど。
 彼らのその後についても記されている。個体数を回復した動物もいるが、ヨウスコウカワイルカのように絶滅したものもいる。さらに残念なことに、彼らは毎年姿を消している数万種もの動植物の、ほんの一部に過ぎないのだ。
 シリアスなテーマであるにもかかわらず、一ページに一カ所は笑いどころがある。『ボートの三人男』や『どくとるマンボウ航海記』のような、レイドバック気味のユーモアが全開だ。とりわけ私のお気に入りは中国編、失われた「ラバーオーバー」を求める旅のくだりである。
 お目当ての動物に辿(たど)り着くまでの苦難を記すアダムスの筆致は、心なしか異星の訪問者がその星の風習に困惑しつつも苦笑しているかのように読める。この星の住人は余裕がない。自分たちが生きるので精一杯(せいいっぱい)の彼らは、他の種族とうまく共存する知恵をいまだ持たないのだ。
 それでも「かれらがいなくなったら、世界はそれだけ貧しく、暗く、寂しい場所になってしまう」とアダムスは言う。「生物多様性」の大切さについて、これほどシンプルで説得力のある言葉をほかに知らない。
    ◇
 安原和見訳、みすず書房・3150円/Douglas Adams 脚本家、作家 Mark Carwardine 動物学者。


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