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密売人 [著]佐々木譲

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2011年09月18日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■四つの事件がつなぐ警察の暗部

 このタイトルから、読者は拳銃や覚醒剤の密売を、想起するだろう。しかし、話はそれほど単純ではない。そこに思わぬ仕掛けがある。
 30年ほど前、デビューした当時の著者は、バイクをテーマにした青春小説を、得意としていた。その後、ミステリーや冒険小説に枠を広げ、さらに戦争ものや謀略もの、幕末ものや明治ものにも、手を染めるようになる。
 こうした多彩な作風のせいか、直木賞とは長いあいだ縁がなかったが、昨年ようやく警察小説『廃墟(はいきょ)に乞う』で、念願の受賞を果たした。今や著者は、警察小説の人気作家の一人として、広く認知される存在になった。もっとも評者は、著者のどの分野の作品も、底に流れるのはデビュー当時と変わらぬ、青春のたぎる血潮だと思っている。
 さて本書は、冒頭で一見なんの関係もなさそうな、三つの死体が発見されるところから、物語が始まる。続いて、幼児誘拐とも思われる、一家3人の失踪事件が発生する。これら、別個の四つの事件について、北海道警の担当刑事たちが、それぞれ捜査を開始する。読者は、当面その4件がどこで、どうつながるのか見極めがつかず、刑事たちのあとについて行くしかない。
 やがて、三つの死体に共通の背景があることが分かり、捜査陣は相互に連携をとり始める。さらに、失踪した家族の夫も、それに関係していることが判明し、事件はにわかに活気を帯びる。共通の背景が、何であるか明らかにされたとき、タイトルの意味が理解される。いったい、だれが何を密売したのか? その真相は、近年世論で批判を浴びるようになった、警察の不祥事に関わることだが、ここではあえて触れまい。
 ちなみに、警察機構の暗部をえぐりながら、警察官個人に対する畏敬(いけい)を忘れぬところに、著者なりの節度がうかがわれて、快いものがある。
 ベテランの好著である。
    ◇
 角川春樹事務所・1680円/ささき・じょう 50年生まれ。『エトロフ発緊急電』『警官の血』『北帰行』など。



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