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文明を変えた植物たち―コロンブスが遺した種子 [著]酒井伸雄

[評者]楊逸(作家)

[掲載]2011年09月25日

[ジャンル]科学・生物 新書

表紙画像

■身近な物たちの偉大な「素顔」

 「文明を変えた植物たち」とあって、開けば、ジャガイモから、ゴム、チョコレート、トウガラシ、タバコ、トウモロコシの6章に解説の終章をプラスした編成になっている。どれもあまりに身に「馴染(なじ)んだ」地味なものなのだから、一瞬白けたような気持ちにもなった。が、読み進むうちに面白くなり、気がついた時は、ファストフード店でフライポテトを口に入れながら読みふけっていた。
 和中洋にかかわらず、何系の料理にでもとけ込みそうな適応能力――適材適所ならぬ、全てが適所というほどに優れたジャガイモは、南米のアンデス高地の「出身」である。ヨーロッパに伝わったのはコロンブスの新大陸「発見」後だというが、いつ誰によってとまではわかっていない。その後、紆余曲折(うよきょくせつ)を経て食卓に定着するようになり、「飢餓の恐怖から人びとを解放しただけでなく」、国力を充実させ、本格的な肉食社会の出現までもたらした。
 ジャガイモがヨーロッパの食文化を一変させた植物であるというならば、世界文明を変えたのはゴムなのであろう。消しゴムや防水布、馬車自転車自動車などのタイヤ。戦争によって合成ゴムも発展してきたが、天然ゴムにどうしても「敵(かな)わない分野が二つ」――温度の激しい変化に耐えなければならない飛行機のタイヤと強度の一方薄さも要求されるコンドーム――あるという。
 喫煙しない筆者は、タバコが人体に不健康であるとばかり思っていたが、皮肉なことにそれが万能薬としてヨーロッパ大陸に広がった。ペストの予防に効果があると信じ、イギリスのイートンにある学校では、生徒が登校する前にタバコを一服することが義務付けられた時代もあった。
 日々何げなしに手で触れたり口にしたりしていた植物たち、その偉大なる「素顔」は本書のお陰で改めて気付かされた。
    ◇
 NHKブックス・1155円/さかい・のぶお 35年生まれ。食文化史家。著書に『日本人のひるめし』など。

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