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旅するウナギ―1億年の時空をこえて [著]黒木真理、塚本勝巳

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2011年09月25日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■どこでどのように生まれるのか

 おなじみなのに、謎に包まれている。ウナギは、そんな生き物の代表格に違いない。
 卵を持った親も生まれたばかりの子どもも見当たらない。どこでどう生まれるのか。紀元前4世紀、ギリシャの哲学者アリストテレスは「ウナギは泥の中から自然発生する」とした。
 著者たちが天然のニホンウナギの卵をとらえたのはそれから実に2千年余り、2009年のことだ。
 本書は、科学がどうウナギの謎に挑んできたか、人や社会はどうかかわってきたか、多面的にこの不思議な生き物に迫る。写真や絵を中心にしたつくりは、見るだけでも楽しい。
 だが、なんといっても圧巻は、著者たちがウナギの卵に迫っていくくだりだ。
 卵探しは20世紀初め、ヨーロッパの研究者が始めた。日本の研究チームによって成果が上がり始めたのはほんのこの十数年のことだ。
 産卵場所は海山(かいざん)のある海域、時期は新月の夜と仮説を立て、候補地を絞り込んでいった。成果が全く上がらない14年の空白にも耐えた。
 仮説は当たり、産卵場所はマリアナ海溝の世界最深部にもほど近い海山のある領域のわずか10立方キロの範囲だった。広大な太平洋の中では小さな小さな点でしかない。
 ウナギの旅にも改めて驚く。レプトセファルスと呼ばれる薄い葉っぱのような幼生は北赤道海流に乗って西に向かい、フィリピン沖で北上する黒潮に乗り換えて東アジアにやってくる。
 シラスウナギとなって川をのぼり、約10年かけて成長すると、いぶし銀のような光沢を持つ銀ウナギとなって再び産卵場への旅に出る。復路はまだよくわからないそうだ。
 海と生命と科学の壮大な物語にたっぷりひたったら、東京・本郷の東京大学総合研究博物館で開かれている「鰻(うなぎ)博覧会」をのぞくのもいい。その足でうなぎ屋へ?
    ◇
 東海大学出版会・3990円/くろき・まり 東大総合研究博物館助教。つかもと・かつみ 東大大気海洋研究所教授。

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