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世界史を変えた異常気象―エルニーニョから歴史を読み解く [著]田家康

[評者]荒俣宏(作家)

[掲載]2011年10月02日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■自然が征服者の運命まで左右

 世界各地で発生した人類史の大事件や大災害の多くには、エルニーニョ現象の影響があったと、近年取り沙汰されている。本書はそれを裏付けつつ、そんな大災害をより一層ひどいことにした張本人も、じつは人類自身だったと、語る。
 まずエルニーニョの発生現場であるペルー沖で起きた事件が、ピサロ船団によるインカ帝国侵攻と金銀の奪取だ。エルニーニョが起きてフンボルト海流が弱まらなければ、そもそもピサロはペルーに辿(たど)り着けなかった。遠いヨーロッパでナポレオンとヒトラーがともにロシア遠征に失敗したのも、エルニーニョが深く関係している。
 話はアジアでも同様だ。
 たとえば19世紀後半に何度もインドを襲った大干ばつと飢饉(ききん)は異常気象と植民地問題との「合作」だった。当時でも、穀倉地帯に雨を降らすモンスーンが弱くなると大飢饉が発生することは経験的に知られていたが、ロシアのアジア南下を懸念する宗主国イギリスは、防備策も救済策も積極的に行わなかった。
 インド総督のリットンら幹部はそろって、東インド会社経営の学校で経済学を教えたマルサスの人口論を信奉しており、飢饉はむしろ植民地の人口爆発と食糧危機を抑える有効手段と考えていたのだ。また水事情の悪化により汚染水を通じてコレラまでがインドから世界に蔓延(まんえん)し、合計で数千万単位の死者を出した。
 中国でも西太后のもとで洋務運動を展開中に何度も大飢饉が発生し、結果、日本のような近代化が成らず清朝滅亡に至った。現地では食人すら行われ、人肉が市場で売られたほどの酷(ひど)さだったという。
 こうして多くの犠牲を土台にしつつ飢饉と自然現象の関係を追究した人類が、ついにエルニーニョ現象に行き着くまでの経緯を、本書は科学と歴史両面から熱く語る。
 次は日本編が読みたくなるほどおもしろい。
    ◇
 日本経済新聞出版社・2100円/たんげ・やすし 59年生まれ。農林漁業信用基金漁業部長。気象予報士。『気候文明史』

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