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蠅の帝国―軍医たちの黙示録 [著]帚木蓬生

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2011年10月02日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■軍医を通じて描く戦争の悲惨

 戦記ものの中でも、あまり取り上げられることのない、軍医を主人公にした連作短編集である。この本を書くために、著者は回想録や専門雑誌を丹念に渉猟し、軍医の仕事のなんたるかを、徹底的に調べたようだ。そして、それらを解体し、分析し、消化し、取り込み、再構築したのが本書、ということになろう。
 収録作品は、いずれも一人称で書かれているが、そこに出てくる〈私〉はすべて、別の軍医である。つまり、いろいろな軍医の手稿を集めた記録文集、というかたちをとっている。
 ただし、この〈私〉はすべて著者その人、といってもよい。著者は、取り込んだ情報を再構築するにあたり、当該人物になりきってその行動を追体験しよう、と決めたと思われる。そうすることで、戦争の悲惨さ、空しさを自分のものとして体感し、さらにそれを読者に共有してほしい、と考えたに違いない。
 開戦70周年にふさわしい労作である。
    ◇
 新潮社・1890円

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