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イスラームから見た「世界史」 [著]タミム・アンサーリー

[評者]柄谷行人(哲学者)

[掲載]2011年10月09日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■欧州・日本、中心史観を相対化

 日本人がもつ「世界史」の観念は、基本的にヨーロッパ中心である。むろん、日本人はそれだけでなく、東アジアから世界史を見る視点ももっている。しかし、その間にある西アジアに関しては、無知も同然である。西アジアはある時期からイスラム圏であり、それはアラビアやアフリカからインド、インドネシアなどに及ぶ。2001年9・11以来、このイスラム圏が突然、大きく浮上してきた。ところが、われわれにはまるで見当がつかない。その政治社会についても、宗教についても、皮相的で紋切り型の知識しかない。しかし、それを補うためにたくさんの本を読んでも、いよいよ不鮮明になるばかりだ。
 本書は、イスラム圏の内部でふつうに考えられている「世界史」を書いたものだ。これを読むと、この世界を外から観察するのではなく、その内部で生きてきたかのように感じる。そして、イスラム圏の人々が他の世界をどう見てきたのか、あるいは、現代のグローバリゼーションをどう考えているのか、を身近に感じられるようになる。読者はこれを読んで、このような史観(物語)に与(くみ)することにはならないだろう。しかし、いつのまにか、ヨーロッパ中心主義ないし日本中心的史観から抜け出ているのを感じるはずである。
 私は本書から、これまで宗教学の本を読んでわからなかったイスラム教の諸派が、具体的にどういうものなのかを学んだ。また、モンゴル帝国の崩壊というと、われわれは東アジアで、元のあとの明帝国を考えてしまうが、それは同時代の西アジアで、三大イスラム帝国(オスマン、イラン、ムガール)の形成に帰結している。それらが、近代ヨーロッパの支配の下で変形され、現在のような多数の国民国家に分節されてきたのである。現在の状況を見るとき、本書に書かれたような「世界史」認識が不可欠である。
    ◇
 小沢千重子訳、紀伊国屋書店・3570円/Tamim Ansary アフガニスタン出身、米国在住の作家。

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