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アニメとプロパガンダ―第二次大戦期の映画と政治 [著]セバスチャン・ロファ

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2011年10月16日

[ジャンル]歴史 政治

表紙画像

■人・資本投入、一気にレベル上昇

 第二次大戦当時、アニメの世界ではアメリカが抜きんでていたのだが、そのプロパガンダの効用を求めて各国のレベルが一気に上がったそうだ。政治・軍事指導者にとって「敵のイメージ」を手っ取り早く国民に説くのは、アニメが最も有効と人材と資本を投じたのだ。著者は当時の各国のアニメをほとんど見たのだろう、作品を通じてそれぞれの国の戦争目的や国民意識を平易に分析している。
 日本の「空の荒鷲」が示すエピソード、イタリアのイギリス首相をもじった「チャーキル博士」でのファシズム賛歌、ドイツでのディズニーの「白雪姫」の上映禁止を巡る混乱、戦争末期に制作された「間抜けなガチョウ」は凡庸な脚本だが、巧みに反ユダヤのメッセージが盛り込まれている。こうした枢軸国のアニメに対して、中立国、そしてドイツ制圧下のヨーロッパ各国の事情にも触れる。
 著者の母国フランスの記述が質量とも多いのは当然だが、ヴィシー政権下でアニメに託されたのは、「フランス人を(現実からの)脱出へと導く」思想だったが、ドイツのプロパガンダ・アニメはレジスタンスを指導する亡命政府、自由フランス批判に必死だった。
 連合国の章では、日本軍制圧下の中国で、萬兄弟制作のアニメ「鉄扇公主」が爆発的な人気を呼ぶ。これは孫悟空物なのだが、「間接的に日本という敵を茶化している」。本書の重要な指摘はアニメ先進国だったアメリカの巨大資本、ディズニーやワーナーなどがどれほどのアニメ作品を産み、それがどのような内容だったかを説く点にある。日本人は「人種差別」の対象として描かれるが、敵国日本への憎悪はドイツの比ではないことがわかる。
 歴史記述に軽率な断定があるように思うが、それを差し引いても新しい世代の新視点をもつ労作であることに変わりはない。
    ◇
 古永真一ほか訳、法政大学出版局・4410円/Sebastien Roffat 80年生まれ。フランスのアニメ研究者、歴史家。


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