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日本の大転換 [著]中沢新一

[評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)

[掲載]2011年10月16日

[ジャンル]科学・生物 社会 新書

表紙画像

■原発の超克へと、渾身の文明論

 久々に出会った壮大な文明論だ。著者は原発事故を思想的に考察し、世界が目指すべき新たな道を構想する。
 人間は地球で生きていると言っても、表層部のわずか数キロの範囲でしか生活ができない。原発は、この生態圏の外部(太陽圏)に属する物質現象からエネルギーを抽出しようとする。地震や津波は、生態圏内部の現象なので、生態圏に備わっている力によって回復できる。しかし、太陽圏からのエネルギーの持ち込みである原発は、いったん事故が起こると、その傷は生態圏の力では治癒できない。
 中沢氏は、この構造を一神教のあり方に見いだす。一神教の絶対者は、環境を超越している。この外部的存在を軸とする「超生態圏」的な思考が、現在の科学技術文明の深層構造に決定的な影響を及ぼしている。「原子力技術は一神教的な技術」である。
 この文明は、資本主義と密接に結びついて拡大した。人間同士が人格的交差によってつながっていた時代、交換には「+α」の要素が組み込まれ、常に贈与の側面が付随した。そこでは自己の存在は自然との交差の中にあり、共感覚が発生する。東北の伝統は、農民や漁民が土地・海と霊的な一体感をもつことにより支えられてきた。しかし、資本主義は共感覚を崩壊させる。
 中沢氏は、原発—一神教—資本主義が結合する近代文明を、次の段階に昇華させるべきだと訴える。そして、その革命は「電子技術で模倣された植物光合成のメカニズム」を用いた太陽光発電に集約される。人工的光合成によって太陽が放出したエネルギーを媒介的に変換し、生態圏でのエネルギーとして活用することを、中沢氏は「エネルゴロジー」(エネルギーの存在論)という造語で捉え、「太陽からの贈与」に依拠した文明の転換を迫る。
 原発を存在論的に超克しようとする渾身(こんしん)の文明論を、しっかりと受け止めたい。
    ◇
 集英社新書・735円/なかざわ・しんいち 50年生まれ。明治大学野生の科学研究所長。『アースダイバー』など。

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