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〈起業〉という幻想―アメリカン・ドリームの現実 [著]スコット・A・シェーン

[評者]山形浩生(評論家)

[掲載]2011年10月23日

[ジャンル]経済 社会

表紙画像

■安易な「夢」にデータで冷や水

 近年のアップル社の成功で、日本版ジョブズ待望論や、景気回復には起業による創造的破壊が必須、といった物言いをあちこちで目にする。そしてアメリカは起業に有利な環境だから、日本も政策的に起業家支援を、という話も多い。
 が、それは本当か? 本書はアメリカの起業についての実証データを元に、そうした物言いに冷や水を浴びせる。
 そもそも、アメリカはさほど起業が多くはない。またみんなのイメージするハイテクベンチャーなんかごく少数。実際にはほとんどがカフェやお店を持ったという程度。
 また起業家というと、若者が革新的なアイデアで業界に殴り込みをかけるイメージだが、実際は中年で犯罪歴が多く、起業の理由も協調性がないだけ。独創性もなくてすぐにつぶれるところ多数。
 だから本書は、安易な起業信仰はダメだ、と指摘する。むしろ起業しにくくして、安易に勤め先を辞めさせないほうが社会的には有益なのだ!
 成功するのは、学歴と所得の高い白人男性による、高成長分野の会社で、投資家が行列しているところだという。だから支援するなら、そうした起業家を選別教育すべきだという指摘は、政策立案者にとっても重要な示唆を与えてくれる。くれるのだが……。
 本書にうなずきながらも、ぼくは少し首をかしげてしまう。著者の言うような有望起業は、それだけ有利なら改めて政策的に支援する必要はないのでは? そして本書の提言——資本金豊富、株式会社、大きなビジネスだけを支援——にしたがったら、ジョブズもアップル社も芽が出なかったのでは? 平均で見れば著者の言う通りだが、ベンチャーの醍醐味(だいごみ)は平均を突破するところにあるのでは——だがそれこそまさに「起業という幻想」そのものなのかもしれない。起業させたい人はぜひご一読を。そして安易な起業を夢見るそこのあなたも!
    ◇
 谷口功一・中野剛志・柴山桂太訳、白水社・2520円/Scott A. Shane ケース・ウェスタン・リザーブ大教授

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