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春を恨んだりはしない―震災をめぐって考えたこと  [著]池澤夏樹

[評者]後藤正治(ノンフィクション作家)

[掲載]2011年10月23日

[ジャンル]社会

表紙画像

■全身で受け止めた被災の全体像

 震災をめぐる思索の書である。作家は女川、大船渡、陸前高田などに足を運ぶ。被災者を診た医師、夫を亡くした理髪店の母子などに会い、耳を傾ける。大勢の遺体が打ち上がった海岸に足を運び、光景を瞼(まぶた)に刻み込む。あの日に起きたこと。その全体像を全身で受け止めんとする。
 「これらすべてを忘れないこと。今も、これからも、我々の背後には死者たちがいる」「人間はすべての過去を言葉の形で心の内に持ったまま今を生きる」「原子力は人間の手には負えないのだ」……思いは言葉を紡ぎ出す。
 思考は日本列島へと及ぶ。四季のめぐる美しい国は古来、天災の勃発する国だった。それが「無常」「諦念(ていねん)」「空気社会」などの国民性を形成したのではないのか——。
 3・11以降、震災にかかわるいくつかの本を読んだ。評者にとって、共感度の高い本だった。この国にはまだ、まっとうな作家がいる。そんな安堵(あんど)感がよぎった。
    ◇
 中央公論新社・1260円

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