テクノロジーとイノベーション 進化/生成の理論 [著]W・ブライアン・アーサー

[評者]山形浩生(評論家)  [掲載]2011年10月30日   [ジャンル]経済 科学・生物 社会 

■大胆に描く、技術の自律的変化

 本書の手柄は中身よりアプローチにある。イノベーションは経済、いや人間社会と文明の発展に決定的な重要性を持つ。が、どうすればそれが起こるのか?
 これについての既存研究は多いし、著者の答えも目新しくはない。あらゆる技術は、他の技術の組み合わせである。だから技術のモジュール化とその自由な組み合わせを促進すれば、イノベーションは起こる! これは内外の多くの識者が何度も指摘したポイントだ。
 が、本書の視点が異様だ。技術が経済に貢献するという従来の見方を、本書は逆転させる。技術は生物のように、自律的に進化発達するのだ。経済はその結果でしかない!
 本書が人間不在という監修者の指摘は慧眼(けいがん)。人間は、技術という生物の淘汰(とうた)進化の環境だ。「有益な技術」を人が選ぶのではない。人間という環境に適応した技術が勝手に生き延びる! 評者などSFファンにはたまらない見方だ。第九章の、人工世界での技術進化シミュレーションなど実に興味深い。
 ただしそのおもしろさが本書の弱さにもつながる。技術が自律的なら「基礎研究に力を入れろ」といった人間側への提言は無意味では? また著者は、技術は人生を肯定するとかいう甘っちょろい結論に落とそうとする。でも本書の議論だと技術は人を肯定も否定もしないのでは?
 視点は刺激的ながら、この本だけではアナロジーにとどまりかねない。帯には「未来を見通す」とあるが、実際の技術ネタは本書だけでは無理。実際の萌芽(ほうが)技術を描いたニコレリス『越境する脳』などをどうぞ。
 複雑系経済学の雄たる著者には、今後は人間という生命体と技術という疑似生命体の共進化をもっと子細に論じてほしいところ。技術はそのとき、まったくちがう様相を表すことだろう。本書はそのための序曲となる。
    ◇
 有賀裕二監修、日暮雅通訳、みすず書房・3885円/W.Brian Arthur 45年生まれ。サンタフェ研究所招聘(しょうへい)教授。

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