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古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち」書評 不安で幸せ?論争的な若者論

評者: 中島岳志 / 朝⽇新聞掲載:2011年10月30日
絶望の国の幸福な若者たち 著者:古市 憲寿 出版社:講談社 ジャンル:社会・時事・政治・行政

ISBN: 9784062170659
発売⽇:
サイズ: 20cm/301p

絶望の国の幸福な若者たち [著]古市憲寿

 現代日本の若者は不幸だといわれる。格差は拡大し、経済成長も難しい。しかし、社会調査では意外な結果が出る。20代の実に7割が、現在の生活に満足していると答える。今の若者たちは、自分たちの生活を「幸せ」と感じているようなのだ。著者は、この奇妙な幸福感の源泉を探り、現代社会のあり方を模索する。
 若者は本当に「幸せ」なのか。別の調査では、「不安がある」と答える若者の割合も増加している。若者の傾向は、「幸せ」と同時に「不安」を抱えているというアンビバレントなものなのだ。
 では、なぜそのような事態が生じるのか。それは「将来の希望」が失われているからである。もうこれ以上、幸せになるとは思えないため、若者たちは「今、幸せだ」と答えるしかない。今よりも幸せな未来を想像できないからこそ、現在の幸福感と不安が両立するのだ。
 若者は「自己充足的」で「今、ここ」の身近な幸せを重視しているという。親しい仲間たちと「小さな世界」で日常を送る日々に幸福を感じているようだ。また、一方で社会貢献をしたい若者も増加している。最新の調査では20代の若者の約60%が社会のために役立ちたいと考えている。
 ここでキーワードとなるのが「ムラムラする若者」だ。仲間といっしょに「村々する日常」とそれを突破する「ムラムラする非日常」を同時に求める心性が、多くの若者に共有されているという。しかし、非日常はすぐに日常化する。そこが居場所となれば、急速に社会性は氷解する。
 著者は、それでいいじゃないかという。複数の所属をもち、参入・離脱の自由度が高い承認のコミュニティーがあれば、十分生きていけるじゃないかという。
 しかし、現実には仲間がいるのに孤独や不全感を抱える若者も多い。賛否が分かれるであろう論争的な一冊だ。
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 講談社・1890円/ふるいち・のりとし 85年生まれ。慶応大学訪問研究員(上席)。『希望難民ご一行様』。