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日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか [著]山田奨治

[評者]福岡伸一(青山学院大学教授・生物学)

[掲載]2011年10月30日

[ジャンル]社会

表紙画像

■「まね」から文化は生まれるのに

 『計画と無計画のあいだ』という本が出るそうな。ひょっとして拙著『生物と無生物のあいだ』のパクリではないか。しかし私はどうすることもできない。書名は、著作権で保護される著作物には当たらないから。一方、昔、♪夜と朝のあいだに、一人の私……♪なんて曲もあったなあ、などとつらつら全文書き写せば、たちまち著作権料を払わねばならなくなる。歌詞は立派な著作物(ちなみに、なかにし礼・作)。著作権侵害は、個人なら最高で「十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金」(法人ならなんと三億円)。単なる窃盗罪が、五十万円以下であることに対し遥(はる)かに重い。
 なぜそんなことになっているのか。本文では、厳罰化に関わっているのはごく限られた人たちであることが明らかにされていく。読みどころは、審議会議事録をもとに、実名で発言者の議論を追って、出版・音楽・映像など諸団体が、読者や視聴者を置き去りにしたまま、権益確保に邁進(まいしん)する姿を赤裸々に活写しているところ。
 また、ゆるキャラの「ひこにゃん」、「キャンディ・キャンディ」、「宇宙戦艦ヤマト」を巡っては、原作者や原画作者自身でさえ「バッタもの」の作者にされうるという事例を取り上げ、著作権のねじれ構造が解説される。
 著者は旗色を鮮明にしている。文化とは何かをまねることから生まれ、広がるものだから、著作権をむやみに厳しくすることは、文化の伝播(でんぱ)を阻害すると。
 そうなのだ。私も、タイトルや文章を借用されたり、無断利用されたりしても目くじらを立てるのはやめよう。まねることは学ぶこと〈まねぶ(C)森村泰昌〉。寛容と非寛容のあいだでは、寛容側に寄るべきだ。それが文化の本質だったはず。この著者には、研究者ながら、果断な勇気がある。言うべきことへの矜持(きょうじ)が示された著作権解説の好著。
    ◇
 人文書院・2520円/やまだ・しょうじ 63年生まれ。国際日本文化研究センター教授。情報学、文化交流史。著書多数。

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