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「三浦哲郎、内なる楕円」書評 東北と東京という二つの定点

評者: 朝日新聞読書面 / 朝⽇新聞掲載:2011年10月30日
三浦哲郎、内なる楕円 著者:深谷 考 出版社:青弓社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784787292025
発売⽇:
サイズ: 20cm/287p

三浦哲郎、内なる楕円 [著]深谷考

 昨年亡くなった私(わたくし)小説作家に関する評論集。書名は、東京で生きる東北人の孤独を描いた短編「楕円(だえん)形の故郷」にちなむ。三浦は東京で暮らしながら、故郷の東北・南部地方に絶えず目を向け、北の人たちの悲しみをみつめた。東北と東京という二つの定点をもつ楕円形が三浦の文学世界、と著者は考える。
 逆接の接続詞への言及も興味深い。「忍ぶ川」などごく初期の作品を除けば、三浦は強い拒絶を示す「しかし」を使わず、やわらかな「けれども」を使った。転換したのは、きょうだいを自死や失踪で失った三浦が滅びの血を受け入れ、正面から向きあう決意を固めた時期。人間味に満ちた文体の原点がここにある。
    ◇
 青弓社・2730円