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加藤周一を読む―「理」の人にして「情」の人 [著]鷲巣力

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2011年11月06日

[ジャンル]人文 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■凝縮された人生、見事に分析

 同時代の一著述家の評論や小説に生涯にわたって触れるというのは、自らの成長を確認するという意味でも極めて貴重だ。戦後社会にあって〈加藤周一〉の存在を羅針盤のように受け止めていた者は多いのではないか。かくいう私自身もそうなのだ。
 加藤の知的関心とその業績は、89年の人生の中にたっぷりと詰まっている。担当編集者でもあった著者は、その内容のすべてを本書によって見事に整理、分析している。
 加藤はその時代背景、自らの時代体験、そして自己透視したあげく見えてくるこの国の歴史と先達たちの重厚な生き方(例えば自分と経歴の似る鴎外、茂吉、杢太郎)を常に根底に据えていた。30代に入ってのフランス留学を始めとする海外体験を通して、自国の文化(「雑種文化」と位置づけた)と向き合い、そこで「比較」という視点を獲得したと、著者は指摘する。
 本書の骨格は、20世紀を知識の総合体として生きた教養人の実像、という点にあるが、天皇制(天皇個人とは別)、戦争、日本人、さらには近代、芸術、古典とあらゆる分野を書き、読み、論じたその姿勢には、「整合性を備えたものに美しさを感じ、強く惹(ひ)かれる思考と感性をもつ」との気質があったと著者は説く。畏敬(いけい)したサルトルの思考は、抽象性と具体性の往復運動であったが、加藤の性格、文章、発想にもそれがあったというのだ。
 その視点・論点が、決してブレなかったこと、20世紀にこのような知識人をもった日本の文化空間、加藤の名は幾多の時間を経ても、後世の評価を受け続けるだろう。加藤のみる近代日本人の死生観、日本文化の時間(「今」の尊重)と空間(「ここ」の尊重)、思想史に一貫性を求める視点、親友の戦死に思う九条の会の呼びかけなど、未来にあっても、なおその論理体系と行動力は強い伝達力を持つと思われるからだ。
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 岩波書店・2835円/わしず・つとむ 44年生まれ。平凡社に勤務、退社後も「著作集」ほか加藤作品の編集に携わる。

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