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居場所の社会学―生きづらさを超えて [著]阿部真大

[評者]中島岳志(北海道大学准教授・南アジア地域研究、政治思想史)

[掲載]2011年11月06日

[ジャンル]人文 社会

表紙画像

■ノスタルジーでない実践知

 近年、若者や高齢者の「居場所」の重要性が頻繁に語られる。国家的再配分が強化されても、社会的に排除された人々が全て救われるわけではないからだ。孤独と承認の問題に対しては、「社会的包摂」の機能を高める必要がある。コミュニティーの多様化と流動化が進む中、ノスタルジーを超えた新タイプの社会が要求されている。
 著者は現代社会の「生きづらさ」の問題を追究し、居場所の実践的命題を提示する。
 居場所づくりには、まず「積極的改善策」がある。居場所はきわめて主観的なもので、その人がそこを居場所と感じているかが重要になる。また、自分にとっての居場所が、他人にとっての居場所であるとは限らない。そのため無理に過剰適応したり、また強引に押し付けたりしてはならず、常に「まわりとのコンフリクトを解決していくなかで」構築されなければならない。居場所づくりには「ぶつかり合い」による相互受容・変容が求められるのだ。
 一方「消極的改善策」もある。それは「ひとりの居場所」をつくることだ。職場などでは、わずらわしい人間関係に巻き込まれがちだが、そこで無理な適応を繰り返すと、生きづらさをこじらせることがある。そんな時には、逆にコミュニケーションからそっと離脱することも必要だ。これには職場のマニュアル化が重要であると、著者は言う。
 居場所は何も一つに限定されるものではない。「私」はいくつもの役割の集積として存在している。人間が多層的存在である以上、居場所も多層的であるべきだ。また、「居場所の臨界点」を知り、そこから状況を改善するための政治的意思をもつことも重要となる。現代社会において、居場所は所与の存在ではなく、常に選択の対象なのだ。
 具体的な実践知が求められる中、本書は重要な指針となるだろう。居場所づくりに携わる人は必読の書だ。
    ◇
 日本経済新聞出版社・1785円/あべ・まさひろ 76年生まれ。甲南大学専任講師。『搾取される若者たち』

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