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流される [著]小林信彦

[評者]逢坂剛(作家)

[掲載]2011年11月06日

[ジャンル]文芸 社会

表紙画像

■祖父への屈折した意識を淡々と

 本編は『東京少年』『日本橋バビロン』に続く、自伝的長編の第三部に当たる。著者はここで、若いころ沖電気に在籍した母方の祖父、高宮信三を描こうと試みる。
 思春期の一時期を、青山にある母の実家で過ごした著者は、信三の人となりに親しく接した。ここに描かれる信三は、家人や周囲の人びとから敬意を払われつつ、なんとなく煙たがられるという、奇妙な存在である。
 著者自身も、信三に用を頼まれたり、外出の供を求められたりすると、半ばうっとうしいような、半ばうれしいような、複雑な気持ちになる。その屈折した意識が、さめた筆致で淡々とつづられる。
 人物描写に精彩があり、中でも素性の怪しい滝本なる男は、すこぶる小説的な人物に描かれている。
 詰まるところ著者は、祖父に対する模糊(もこ)とした心情を、あらためて検証するために自己を語り、そこに祖父の面影を見いだそうとした、と思われる。
    ◇
 文芸春秋・1550円

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