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旅行く孫悟空―東アジアの西遊記 [著]磯部彰

[評者]楊逸(作家)

[掲載]2011年11月06日

[ジャンル]人文

表紙画像

■日本ではカッパになった沙悟浄

 中国の五大古典小説とされている『三国志演義』『西遊記』『水滸伝』『金瓶梅』『紅楼夢』。そのいずれも古くから日本に伝わった。翻訳本のほか、日本人好みの再創作、いわゆる翻案小説が今も出版され、長きにわたって愛読されているようだ。
 今日のような出版社や版権などを斡旋(あっせん)するエージェントがなかった時代、中国文学はいかにして東アジアに伝わり、受容されたのか。本書は『西遊記』を糸口に、糸を手繰るようにしてそのプロセスを追うことを試みる。
 『西遊記』とは、唐の高僧・三蔵法師が妖怪風貌(ふうぼう)の弟子3人、白馬1匹を率いて、仏教の経典を取りに天竺(てんじく)(今のインド)へ向かう旅物語である。17年もかけて天竺へ行って「般若心経」などの経典を中国に持ち帰った、7世紀の『大唐西域記』の玄奘は実在の人物ではあった。飛行機も車もない当時、たった一人で偉業を成し遂げたという奇跡は、彼が唐に戻って間もなく伝説となって広がっていった。が、それを基にした小説の完成版は、現存する最も古いものでも、400年前の明末『新刻出像官板大字西遊記』になるという。
 この旅物語は、ベトナム、チベット、朝鮮半島、日本などの東アジア地域に伝わり、小説のみならず、演劇にもなったりして庶民を楽しませていた。そんな中で、国情や文化によって、小説の中のキャラクターも変化を遂げた。
 ベトナムに猿行者由来のハヌマーンがおり、韓国では虎、鹿、羊からなる三道士が孫悟空と術比べする内容も加わった。さえない沙悟浄は、日本の文豪曲亭馬琴に出会ったお陰でカッパに変身し、際立つ存在となった。
 長い年月をかけて長い旅をした中国文学。東アジアに根差し、今日までに歩んでこられたのは、本来に持っていた魅力に加え、異なる文化に溶け込むような柔軟性も備えていたからなのだろう。
    ◇
 塙書房・3780円/いそべ・あきら 50年生まれ。東北大学教授(中国文学・東アジア文化史)。

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