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科学ジャーナリズムの先駆者 評伝 石原純 [著]西尾成子

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2011年11月13日

[ジャンル]科学・生物 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■物理学のあり方論じた真の学者

 「石原純」という名前は、多くの人にまずなじみがないことだろう。とすると、「科学ジャーナリズムの先駆者」という表題だけでは、やや誤解を招くかもしれない。
 著者が冒頭で記しているように、何より、第一級の理論物理学者であるからだ。20世紀初め、物理学に革命をもたらした相対論や量子論について、日本で最初の論文を発表し、議論をリードした。
 歌人でもあり、岩波書店の月刊誌「科学」が1931年に創刊された時の初代編集主任も務めた。物理学や科学に関する数多くの著作は、湯川秀樹、朝永振一郎といった、後のノーベル賞受賞者たちが物理学の道に進むきっかけともなった。
 その初の評伝である。
 これだけの科学者の名があまり知られていないとは。不思議ですらある。
 妻子ある身での恋愛がスキャンダルになり、42歳で東北帝大教授を退職したこともあるのだろうか。以来、研究からは身を引き、科学を論じ、伝える側に回った。
 「科学」11月号の対談で、江沢洋・学習院大名誉教授は「石原のような生き方をした人を物理学者と認めないのは日本の物理学の大変な不幸だと思う」と語っている。伝えることは本来、学者そのものの責任であり、物理学がいかにあるべきかを論じる人も物理学者だ、とする。
 石原の一貫する主張は、社会の健全な発展のためには自由な科学研究が不可欠だ、というものだ。真の科学振興は、合理的かつ独創的な思考を育むことだとして、科学教育の重要性を訴え、戦時中の政策を批判した。
 終戦後の9月、ただちに復刊した「科学」の巻頭言は「科学と自由」、続く10月号は「気宇を広大に」である。その後まもなく、交通事故がもとで帰らぬ人となる。
 その生涯と主張は、今日の科学と科学者のあり方にも、大きな示唆を与えてくれる。
    ◇
 岩波書店・3570円/にしお・しげこ 35年生まれ。日本大学名誉教授。『こうして始まった20世紀の物理学』。

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