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ロールズ 政治哲学史講義1・2 [著]ジョン・ロールズ

[評者]姜尚中(東京大学教授・政治学、政治思想史)

[掲載]2011年11月20日

[ジャンル]人文

表紙画像

■率直、簡潔に「正義」を読み解く

 本書はロールズによるハーバード大学での講義録であるが、現代の古典(カノン)として名高い『正義論』の読解に不可欠なテキストである。講義という形式のせいか、ロールズは率直かつ簡潔にリベラリズムとその政治哲学の思想と伝統について語っており、読んでいても小気味いいほどである。
 それにしても政治哲学と聞けば、難解な思弁や高尚な理想がちりばめられた権威的な学問と思われがちだが、決してそんなことはない。ロールズが言う政治哲学は、立憲デモクラシーの制度や政策にふさわしい正義や公共善といった基本的な観念に関する市民的な背景文化の一つになっているからだ。この意味で政治哲学の権威は、あくまでもその時代ごとの市民の双肩にかかっているのである。
 ロールズによれば、そうした政治哲学の伝統は社会契約論と功利主義から成り立っている。社会契約論の範例的な思想家としてホッブズ、ロック、ルソーが、また功利主義の代表者としてヒューム、ミルが、さらにそれらの批判者としてマルクスが扱われている。ロールズは、テキストに対する「解釈上の善意」を払いつつ、自らの「公正としての正義」を手がかりに、これらの巨人たちの正義の構想を読み解いていくのである。
 本書が並の政治哲学史の講義と違うのは、功利主義の代表的な範例としてヘンリー・シジウィックに言及するとともに、ホッブズと並んで近代の道徳心理学の定礎者とも言えるジョゼフ・バトラーにスペースを割いていることである。そこには、政治哲学は道徳心理学に基づいていなければならないという確固とした信念がうかがえる。この点で、ロールズ批判の代表的な哲学者であり、共通善の存在論を説くチャールズ・テイラーの『自我の源泉』と比べてみれば、興味深いに違いない。
 訳文はこなれて読みやすく、ロールズの政治哲学を知る上でも重要なテキストだ。
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 齋藤純一ほか訳、岩波書店・各3780円/John Rawls 1921~2002年。元ハーバード大教授。



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