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日本のものづくり―競争力基盤の変遷 [著]港徹雄 

[評者]植田和男(東京大学教授)

[掲載]2011年11月20日

[ジャンル]経済

表紙画像

■製造業、陰りの理由はどこに

 韓国産の自動車が品質面で日本産と同等か上回るような評価を欧米で受ける。日本の電機メーカーがなかなか利益を出せない。一昔前に世界を席巻した日本の製造業の競争力にはっきりと陰りが見える。本書は、その原因の一端を著者の長年の研究に基づいてまとめた好著である。
 著者によれば、1990年ごろまで日本の製造業の競争力を高めた一つの要因は、よく指摘されるように、親企業と下請けの協働である。両者の長期継続取引は企業間の密接な情報交換を通じ生産性向上に寄与した。この仕組みの重要性は、東日本大震災による一部部品の供給停止が、世界的に負の影響の連鎖を引き起こしたことからもわかる。また、生産現場の随所で発揮された熟練工の技能も重要であった。例えば、二次元の平面に書かれた設計図をもとに三次元の機械加工を行うには高度の熟練が必要であった。
 こうした優位を情報通信技術の革新が打ち消しつつある。熟練工による高精度の金型加工は、パソコン上の三次元での情報処理に取って代わられ、密接な関係を保った企業間での部品の調整(すり合わせ)作業も、コンピューター上のシミュレーションで代替できるようになってきた。
 さらにインターネットの普及もあり、情報通信技術による熟練の代替は世界中で可能になり、一部の製品、部品は品質に差がなくなった。著者によれば、競争は高度の知的インプットを体現したプロダクト・イノベーションに関するものに移ってきている。そこでは、研究開発を担当する研究者の質を左右する教育の問題と、彼らの流動性が重要である点が指摘される。
 彼らがプロジェクトごとに自由に移動して刺激を受ける中で革新が生まれるということだろう。著者も指摘するように、この点は日本企業、経済が情報通信技術の発達を競争力向上に結び付ける上で大きなハードルとなっている。
    ◇
 日本経済新聞出版社・3675円/みなと・てつお 45年生まれ。青山学院大学教授。共著に『中小企業論』。



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