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「方言コスプレ」の時代―ニセ関西弁から龍馬語まで [著]田中ゆかり

[評者]田中貴子(甲南大学教授)

[掲載]2011年11月27日

[ジャンル]人文 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■方言は土地固有じゃおまへん

 「ひったくり許しまへん」。11月20日付本紙(大阪本社版)の京都市内ニュース面に、こんな見出しが躍っていた。京都市のひったくり発生件数が全国ワースト2という記事だが、驚いたのは中身よりこの見出し。いやぁ、京都育ちのうちかてこんな古くさい言葉使わしまへんぇ。って、使うてるがな。
 これが、今や全国区になった方言コスプレの一見本である。この京都方言は私のような中高年でもほとんど使わないが、他地方の人に「いかにも京都らしい」感じをわかりやすく伝える。日常的に京都方言を使用している私が、「いかにも」な方言でコスプレしているのだ。著者の表現によれば、「リアル方言由来の『土地』との結びつきをもつヴァーチャル方言」ということになる。
 またこれは、自分でボケてツッコむ「お笑い」系の方言として周知される、ヴァーチャルな関西方言ということもできる。テレビ等のメディアによって、どこの方言ともいえない「関西弁」は全国的に通用するようになった。
 農民といえば東北弁、熱いオトコの九州弁、ヒョウ柄好きなおばちゃんの大阪弁、といった方言のステロタイプなイメージは、実態から離れて広まったヴァーチャルなものである。若者たちは、そうしたヴァーチャル方言をメールなどで使って楽しむ。こうした現象の起きるメカニズムを分析した本書は、従来の「方言といえば土地固有のことば」という観念をぶち壊す画期的な研究成果である。
 坂本龍馬がテレビドラマの中でいつから「土佐弁」になっていったかという考察は、緻密(ちみつ)な調査に支えられた本書の読みどころ。ヴァーチャル方言への意識が首都圏と地方であまり変わらないという指摘は、日本の平板化、画一化とも関わるだろう。「正しい日本語」やら「変な方言」を云々(うんぬん)する前に、ぜひ目を通していただきたい本である。
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 岩波書店・2940円/たなか・ゆかり 64年生まれ。日本大学教授(方言・社会言語学)。

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