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横浜事件・再審裁判とは何だったのか―権力犯罪・虚構の解明に挑んだ24年 [著]大川隆司、佐藤博史、橋本進

[評者]上丸洋一(本社編集委員)

[掲載]2011年11月27日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■戦時下日本の警察・司法を裁く

 「免訴」
 広辞苑を引くと、「刑罰権の内容を実現する利益と必要がない場合、すなわち……犯罪後刑が廃止されたとき……に言い渡される手続打切りの裁判」とある。
 戦時下、治安維持法違反を理由に、約90人(氏名未確認を含む)の言論・出版関係者らが神奈川県の特高警察によって検挙された。
 獄死者も出したこの大規模な思想・言論弾圧事件「横浜事件」は1986年から2010年までの24年間、4次にわたる再審裁判をへて「免訴」が言い渡された。
 本書は、この再審裁判に携わった弁護士、ジャーナリストが、事件の構造と再審裁判の構造を分析的に描き出し、支援運動の経過をたどる。
 なかでも第三章「横浜事件の再審裁判は何を求め、何を勝ち取ったのか」(佐藤博史執筆)は、複雑に展開した再審の過程において、主張の力点がどう変化し、その結果、どんな判決が得られたのかを明快に解いて圧巻だ。刑事裁判の進展をたどる乾いた叙述のなかに、「スリリング」な知的感興をおぼえた。
 裁判所は最終的に「警察、検察及び裁判の各機関の故意・過失は総じて見ると重大であったと言わざるを得ない」と述べて、事件が権力による犯罪だったことを認めた。
 言い換えると、かつての「思想犯たち」が、この再審裁判を通じて戦時下日本の警察・司法を裁き、「有罪」判決を勝ち取ったということになろう。著者たちが求めたのは「免訴」ではなく「無罪」だった。しかし、最後は判決を「実質無罪」と評価する。
 横浜事件の始まりから、戦後早い時期に行われた元特高警察官に対する裁判までの記録を集成した『ドキュメント横浜事件』と、再審裁判の記録をまとめた『全記録 横浜事件・再審裁判』の二つの大著が合わせて刊行された。ペンの自由にかける執念が結実させた記念碑的出版である。
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 高文研・1575円/おおかわ・たかし 弁護士▽さとう・ひろし 弁護士▽はしもと・すすむ 元中央公論編集次長。



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