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「生きる力の源に―がん闘病記の社会学」書評 550冊を分析、新分野開く

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2011年11月27日
生きる力の源に がん闘病記の社会学 著者:門林 道子 出版社:青海社 ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784902249576
発売⽇:
サイズ: 21cm/307p

生きる力の源に―がん闘病記の社会学 [著]門林道子

 人はなぜ「闘病記」を書くのか、その社会的意味は、などの問題意識をもとに、約550冊の闘病記を分析し、時代と病(主にがん)の関係を明かした書である。1970年代からの闘病記を見ていくことによって、図らずもがん治療の実態、告知、患者の受け止め方などの変遷がわかるのだが、著者の姿勢は、医療者と患者・家族の良好な社会的関係を創出したいとの点にあり、それだけにその分析は冷静で建設的である。
 闘病記からは、患者本人が「『病いと闘う』ばかりではなく、患者に本当のことを言わない時代の『衝撃』『苦悩』や、2000年代に入ってからは、病いとの『共生』『共存』」がわかるという。具体例で、そのことを実証しつつ、相互虚偽認識時代(医療者と患者ががんであることを、互いに知らないふりをする)の医療現場の苦悩には合点がゆく。悲しみを癒やすグリーフワークを論じ、家族論まで記述する多角さは、新しい分野の開拓書というべきであろう。
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 青海社・3200円