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本へのとびら 岩波少年文庫を語る [著]宮崎駿

[評者]横尾忠則(美術家)

[掲載]2011年12月04日

[ジャンル]人文

表紙画像

■児童文学伴侶に、創造に絶望せず

 縁側の板間の廊下で肘(ひじ)をついて寝そべった姿勢で本を読み耽(ふけ)っているオカッパ頭の少年の側(そば)に寄り添う庭の白い犬。犬が猫に代われば僕の少年時代の自画像と言ってもちっとも不思議ではない宮崎駿さんの少年時代の自画像が、本書の口絵をカラーで飾っています。
 そして次の見開き頁(ページ)には400点を超える岩波少年文庫の中から50冊を選ぶため候補本を床に並べて感慨深げに沈思黙考しておられる仕事着の宮崎さんの嬉(うれ)しそうな優しい顔に、児童文学への愛が語られているのが読み取れます。
 巻頭カラー頁で宮崎さんが選ばれた50冊の岩波少年文庫の表紙や挿絵が紹介され、その一冊ずつに短文が添えられ、そのどれもが読んでみたくなるような気持ちをそそられるのです。それぞれのコメントは内容の紹介や解説ではなく、宮崎さんの人生観がさりげなくポロッと易しい語り口で語られています。こんな具合に。
 「不思議な力を持っている本です。ムシャクシャして、イライラしている時、くたびれて、すっかりいやになっている時、この本を読むと、ホワーンと……(略)」
 本文では挿絵や表紙の絵の魅力についてもたっぷり語ってくれます。児童文学になくてはならないのは挿絵でしょう。しかし現代は「一枚の絵を丹念に読みとる習慣を失っている」ことを宮崎さんは嘆きます。ぼくも同じ気持ちです。山田風太郎さんは挿絵の魅力にとりつかれて小説家になったと語ってくれました。それほどぼくたちの少年時代は挿絵の視覚言語の力は大きかったのです。
 ぼくが羨(うらや)ましく思うのは宮崎さんが長い人生を常に児童文学を伴侶としてこられたことです。ぼくは少年時代、児童文学は一冊も読まないまま、70歳の古希を迎え、残りの時間のことを考えた時、今児童文学を読むしかないと思いました。本書に選ばれた本の中では、たった7冊しか読んでいません。今ぼくは“幼い老人”の入り口に立っています。そしてこれからが児童文学に触れる人生の佳境に入ったのだと思っています。
 宮崎さんは児童文学は大人の小説と違って「やり直しがきく話」だと決め、自分は大人の小説には不向きの人間だと思い知らされたと言われます。ぼくにも言えることです。そして「世界のことが全部書いてある」たった一冊の本があればいいと提案されます。
 最後に著者は、3・11のあとに世界規模の破局の予感を抱きながら、「現在の状況は終わりが始まった」ことを実感しますが、このペシミスティックな現状の中でも創造世界には絶望していないと応じます。芸術の未来に何が託せるか、ぼくも宮崎さんと共に深く考えてみたいと思います。
    ◇
 岩波新書・1050円/みやざき・はやお 41年生まれ。アニメーション映画監督。監督作品に「ルパン三世 カリオストロの城」「風の谷のナウシカ」「となりのトトロ」「紅の豚」「崖の上のポニョ」など。著書に『折り返し点』など。

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