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Cooking for Geeks [著]ジェフ・ポッター/味わいの認知科学 [編]日下部裕子・和田有史

[評者]山形浩生(評論家)

[掲載]2011年12月04日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■科学実験のように料理する

 料理マンガでありがちなのが、才能と情熱の天才料理人(主人公)が、理論とコンピューターを駆使した科学者料理人と対決する話だ。もちろん「冷たい科学じゃ人の心は動かせないぜ!」と主人公が勝つのがお約束。
 が、料理の相当部分は物理化学反応だし、科学的な知見は当然役にたつ。直感と試行錯誤は重要だが、科学知識はそれに方向性を与え、失敗を大幅に減らしてくれるから、解説書も多い。
 その中でポッター『Cooking for Geeks』は、ボリュームも詳しさも、群をぬいている。ギーク(おたく)向けだけあって、各種調理器具の改造方法や異様な殺菌方法なども充実。有機食品の是非や、地球に優しい料理など、周縁的な話題もカバーしている。そして各種レシピは、むしろ各種の物性変化や化学反応理論の実証実験としての位置づけだ。
 料理初心者にはおすすめしない。カラー写真もなく、科学実験手引書みたいな本書のレシピは、一見おいしそうに思えない。まずはお手軽クッキング本から入ろう。でも料理の本当の醍醐味(だいごみ)は、既存レシピに自分なりの工夫を加えることだ。そのとき、各種変数を明確にした本書の解説は実に有用だ。
 理屈っぽさでさらに上をいくのが『味わいの認知科学』だ。味の脳内認知機構にまで踏み込んだ論文集で、もはや完全な学問の世界。料理に活用という域をはるかに超える内容だが、思いっきり踏み込みたい人はぜひ。
 一般的な料理に慣れた人は、こうした本の解析的アプローチに違和感を覚えるだろう。その人の嗜好(しこう)もある。だが、直感で行動→理論的に分解→再構築というプロセスは、あらゆる学習に必須のプロセスだ。これらの本はそれを確実に支援してくれる。そして作ってみると、冷たい科学の料理もすてたものじゃありませんぜ。お試しあれ。
 評・山形浩生(評論家)
    ◇
 『〜Geeks』水原文訳、オライリー・ジャパン・3570円/『味わいの認知科学』勁草書房・3150円

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