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裸のフクシマ 原発30km圏内で暮らす [著]たくきよしみつ

[評者]福岡伸一(青山学院大学教授・生物学)

[掲載]2011年12月04日

[ジャンル]社会

表紙画像

■平明さが伝える静かな怒り

 以前からこの著者には密(ひそ)かに着目していた。PCは買ったままの設定で使うな。文章は、おせっかいなワープロソフトでなく、シンプルなエディターで書こう。mp3ファイルの音は悪くない。デジカメに1000万画素も不要。私たちが、言われるままにとっぷり漬かっているテクノロジーのあり方を、果敢かつ慧眼(けいがん)をもって批評する姿勢に好感が持てた。なので本書を見つけた時、なぜ、と思った。
 実は、著者は福島出身。県内の川内村に土地を得て、定住しはじめたところだった。そこに地震が来た。彼の家は原発から25キロ地点。ネットも電話も不通になった。じわじわと不安が深まる。福島中央テレビが衝撃的な映像を流した。1号機が爆発。しかしその意味を教えてくれるものは誰一人いない。避難を決意。必要最低限のものを車に積んで出発した。
 翌日、川崎に残してあった仕事場に到着。ネットなどを総動員して情報収集を始めた。驚くべき状況が次々と明らかになっていく。3月26日、彼はガソリン、支援物資、線量計を持って川内村を目指した。途中から線量計の警告音が鳴りっぱなしになった。
 政府や自治体の機能不全ぶりを鋭く批判すると同時に、福島の人々はどうしているのか、何を考えているのかを克明に記していく。仮設住宅に移ることを拒否し、金のかからない集団避難所を出ようとしない人たち、三食昼寝つきに加えて温泉まで入り放題の避難生活を享受する人々、あるいはパチンコ店の盛況ぶりをも赤裸々に記述する。一方で、この山里に住み着き、ここに留(とど)まることを選んだ人々の、再生への小さな一歩を活写する。著者の知人の農家は、自治体の統制に逆らって、今年も作付けに向けて田んぼに水を入れた。技術評論で培った冷静さと平明さ、そして静かな怒りに裏打ちされた正義感とでも呼びうる公平さが本書の持ち味である。
    ◇
 講談社・1680円/鐸木能光 55年生まれ。小説、デジタル文化論など執筆。『日本のルールは間違いだらけ』ほか。

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