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ドキュメント アメリカ先住民―あらたな歴史をきざむ民 [著]鎌田遵

[評者]後藤正治(ノンフィクション作家)

[掲載]2011年12月11日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■居留地に育つ新しい希望の芽

 アメリカ中西部を旅していた日のこと。砂漠地帯を走るフリーウエーの側(そば)に、突如「カジノ」の看板とギンギラ模様の建物が現れた。なんでこんなところに……と思ったものだ。本書を読んで謎が解けた。フリーウエーの原籍をたどれば、この道は先住民たちが往来した交易路であり、カジノは、居留地へと囲い込まれた民に与えられた“地域振興策”であったのだと。
 先住民の歴史はアフリカから連れて来られた黒人たちに比べてもなお苛酷(かこく)である。黒人たちは奴隷として売られたが、“絶滅”にさらされることはなかったから。新大陸開拓史のヒーローは先住民にとっては虐殺者であり、奴隷解放の父・リンカーンも先住民には冷徹な大統領だった。
 著者はカリフォルニア大学バークリー校などで先住民を専攻した若き研究者。全米にちらばる居留地を訪ね、時にベビーシッターをつとめ、脅され、進学相談に乗りと、生身の彼らと交流しつつ本書をまとめた。目線は柔らかくて複眼的であるが、積年のフィールドワークがもたらしたものでもあるのだろう。
 カジノの隆盛によって豊かになった居留地もあるが、アブク銭は人々の自立心を奪う。貧困、差別、アルコール依存、麻薬……居留地が抱える社会問題は依然深刻である。一方で、新しい希望の芽も育っている。
 バークリー校の講師、キンバリー・トールベアーは、かつて連邦軍に刃向かって殺されたダコタ族の勇士リトル・クロウから数えて6世代目の子孫。居留地の環境問題に取り組んできた。7代目になる娘カルメンは伝統的な部族文化を伝える踊り子でもある。
 居留地から若い研究者、弁護士、実業家たちが育っている。先祖ではなく、わたし自身を見てほしい——キンバリーの言葉である。過酷なる、もうひとつのアメリカ史が塗り替えられていく息吹が伝わってくる。
    ◇
 大月書店・2940円/かまた・じゅん 72年生まれ。亜細亜大学専任講師。アメリカ先住民研究、都市計画学が専門。

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