書評・最新書評

原発事故20年―チェルノブイリの現在 [著]ピエルパオロ・ミッティカ [訳]児島修

[評者]上丸洋一(本社編集委員)

[掲載]2011年12月11日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■不可視の実在、写しとるカメラ

 1986年に起きたチェルノブイリ原発事故に関する本は、これまでもいくつか読んできた。しかし、今回、この写真集を手にとって、従来とは全く異なる感懐を抱いた。もちろん、それは福島で原発事故が起きたあとに読んだからにちがいない。
 ――東京電力福島第一原発周辺もこうなるのだろうか。
 ページを繰るごとに、そんな不安に駆り立てられる。
 著者は40歳のイタリア人写真家。特別の通行許可証を持って、立ち入り禁止の汚染区域を歩き、シャッターを切り続けた。
 人形や子どもたちの写真が置き去りにされた学校、幼稚園、荒れ果てた無人の遊園地、無人の農村、そして「石棺」に覆われた原子炉……。
 なるほど、放射線は目に見えない。しかし、そうした空間にそれは確かに実在する。その「不可視の実在」をカメラが確かに写しとる。
 退避区域に指定されている地域に老人たちが暮らす。
 その一人が言う。
 「村にいれば、土地を耕し、動物を育てられます。すべてが放射能によって汚染されていることはわかっています。しかし、飢え死にするよりもましなのです」
 白血病の9歳の少女が、かつて撮った自分の写真を示して語る。
 「私には美しい髪がありました。よく、何時間もかけて髪を編み、とかしたものです。いつの日かまた、それができることを願っています」
 かつて「(原発は)人間の作ったものの中で一番安全性の高いものである」と豪語した学者が日本にいた(78年5月4日付朝日新聞大阪本社版「論壇」欄)。
 福島県だけで15万人以上が避難生活を送るまさに今「原発事故では一人も死んでいない(だからたいしたことはない)」と公言する人もいる。
 ゲンパツと人間は共存できるのか。原発への賛否をこえて一読をすすめたい一冊だ。
    ◇
 柏書房・3150円/Pierpaolo Mittica 71年生まれ。イタリア人カメラマン、歯科医。

関連記事

ページトップへ戻る