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一般意志2.0―ルソー、フロイト、グーグル [著]東浩紀

[評者]斎藤環(精神科医)

[掲載]2011年12月18日

[ジャンル]人文

表紙画像

■政治の未来図を描き出す想像力

 東浩紀、待望の新刊である。単著としては実に二年ぶり、思想を語る本としては四年ぶりだ。
 本書の主張は実にシンプルだ。要するに未来の民主主義はツイッターやニコニコ生放送(いずれもインターネット上のサービス)のようになり、政府はグーグルのような存在になる、と。それは一つの「夢」として語られる。
 キーワードは「一般意志」。フランスの思想家ジャンジャック・ルソーの創出した奇妙な概念だ。ナショナリズムやファシズムにも親和性が高いこの概念は、世論のような「全体意志」とは決定的に異なる。それは人間ではなくモノの秩序に従い、コミュニケーションではなく数学の秩序に属する。
 決して分かりやすいとは言えないこの概念を、東はアクロバティックな剛腕をふるってこう言い換える。「一般意志とはデータベースのことだ」と。
 かつては抽象的な概念に過ぎなかった「一般意志」は、コンピュータ・ネットワーク上で「一般意志2・0」として抽出可能になった。それは人々の発言や行動履歴の記録であり、東の表現を借りるなら人々の「集合的無意識」なのである。
 この政治形態のもとで、政治家の役割は可視化された大衆の無意識的欲望の流れとリアルタイムで向き合いながら、流れに乗ったり時には介入したりという「調整役」になるだろう。
 政治的コミュニケーションや熟議の価値を否定するかのような論調には異論もあろう。私も本書におけるフロイトと無意識の扱いについては山ほど言いたいことがある。
 しかし私は、本書をひとまず「SF」として読んでみることを提案したい。この異様なアイデアから、いかなる未来図が描きうるか。そうした想像力のもとで「政治」について考えてみることは、決して無意味ではないはずだ。
    ◇
 講談社・1890円/あずま・ひろき 71年生まれ。哲学者・作家。「思想地図β」編集長。『郵便的不安たち』など。

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