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遺体―震災、津波の果てに [著]石井光太 

[評者]田中貴子(甲南大学教授)

[掲載]2011年12月18日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■死認める覚悟なくして復興なし

 あの大震災から9カ月たった。政府は「復興庁」を計画し、被災地でも復興への努力が重ねられている。だが、津波に襲われた海岸部では、今でも行方不明者の遺体捜索が行われているのが現状だ。
 災害現場に重くのしかかってくるのは、通常では考えられないほど大量の遺体の処遇という問題である。遺体の身元確認、死者の尊厳をおかさない安置の方法、そして葬り方まで、想像を絶する事態が待ち受けていた。著者は災害発生直後に岩手県釜石市に入り、その現場をつぶさに追った。本書は、あまり触れられることのなかった災害と遺体の現実を語ったルポルタージュである。
 人の死は、遺体という物言わぬ証拠を突きつけられることによりにわかに現実味を増す。それがたとえ他人の死であるとしても、悲しみとやりきれなさにとらわれるのは人の常だろう。しかし、時間とともに着実に変化してゆく数多くの遺体の前でたたずんでいる余裕はない。早く、一刻も早く葬ってあげねば。市職員や消防団員、医療関係者の不休の活動が、臨場感あふれる文章で読者に迫ってくる。
 だが、遺体に慣れている人などめったにいない。著者は、遺体に接するのをためらう感情にも筆を及ぼす。限りなく続く作業に対する徒労感にも言及する。きれいごとだけではすまない部分が描かれることで、生者が遺体に学ぶべきことがいかに多いかを、私たちはいやおうなく考えさせられるのである。
 安置所をめぐって読経する僧侶の姿は、遺族の心を和らげる。大量の棺を用意し火葬の手配に奔走する葬儀社社員の努力は、まさに縁の下の力持ちだ。弔いという行為が多くの人に支えられて成り立っていることを改めて実感させられる挿話も多い。
 多くの人の死をきちんと認める覚悟なくして復興はない、と著者は言う。3・11はまだ終わってはいないのだ。
    ◇
 新潮社・1575円/いしい・こうた 77年生まれ。ノンフィクション作家。著書に『絶対貧困』など。

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