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結核と日本人―医療政策を検証する [著]常石敬一 

[評者]辻篤子(本社論説委員)

[掲載]2011年12月18日

[ジャンル]医学・福祉

表紙画像

■制圧計画の成否を鋭く問う

 人気タレントが結核に感染して休養したニュースはまだ記憶に新しい。結核の集団感染も時折報じられる。実は、日本は先進国の中では際だって患者の多い結核の「中蔓延(まんえん)国」なのだ。
 結核は決して過去の病気ではない。その対策とて、同様だ。結核制圧計画は成功だったのか。著者はそう問い、検証を進めていく。
 1951年、日本の結核は大きな転機を迎えた。新結核予防法がスタート、34年以来の死因のトップを脳疾患に譲り、その後、死者は激減していく。新予防法の効果とも見えるが、果たしてそうか。
 格好の比較対象がある。51年、米軍の下で全く異なる結核対策が始まった、復帰前の沖縄だ。BCG接種を進めた本土に対して、患者の早期発見と在宅中心の投薬治療が行われた。自然感染かどうかの見分けを難しくするとして、米国ではBCGは推奨されていなかった。
 沖縄での死亡率はその後、全国平均を下回った。新予防法の効果に疑問を投げかける結果だ。
 新予防法には、厳しい批判者がいた。その急先鋒(きゅうせんぽう)が後に日本医師会長になる武見太郎氏だ。「結核撲滅策の撲滅」と題した論文を発表し、統計などの基礎資料や現状を踏まえないままでは場当たり的政策になるなどとしたが、いれられることはなかった。
 64年には世界保健機関(WHO)が、X線検診はやめ、症状が出た人のたんの検査で診断すること、また、入院ではなく、外来での治療を推奨する勧告を出した。しかし、小中学生のX線検診が原則として中止されたのは92年だ。発病したら即入院して治療という対応は、先進国では日本だけの常識だという。
 疾病対策は、きちんとした根拠に基づくべきであることはいうまでもない。これからの医療政策のために、まずは歴史の教訓に学ぶ。貴重な問題提起だ。
    ◇
 岩波書店・2835円/つねいし・けいいち 43年生まれ。神奈川大学教授(科学史・科学思想)。

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