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ジェントルマン [著]山田詠美

[評者]楊逸(作家)

[掲載]2011年12月18日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■様々な性と愛の形、凄絶な結末

 抜群の容姿、優しくて立ち居振る舞いも優雅、その上勉強が出来、スポーツも堪能。自分の居場所を一番でなく、常に二番に据えておく加減の良いセンス。——そんなジェントルマンの高校生、もはや天性というほかない。
 男子女子問わずクラスメートみなの憧れの対象になっていた漱太郎を、冷ややかな目で眺める、夢生という男子同級生もいた。しかし、ある嵐の日の出来事によって事態は一変してしまう。漱太郎の人知れぬ真の姿を目撃し、それに強く魅(ひ)かれ犯罪に加担した夢生。二人の運命は繋(つな)がった。
 以来、社会に出た後も、出世し、妻子を持つようになって世間一般基準の幸せを手に入れた漱太郎を、陰で、夢生が「奴隷」のようになって愛し続ける。
 「人が家族を愛するようには愛している」が、「おれが愛するようには、愛していない」という漱太郎が家族への感情を表現したその言葉から、夢生は根拠のない優越感を得、日々かれの過去の悪事の断片を反芻(はんすう)しながら、自分との「繋がり」を確かめる。女性よりも繊細で切ない「愛情」をもって、ひたすら尽くすのである。
 そんな二人の二十年間を様々な形の断片に切り、一人称と三人称を交互させながら、またそれらをパッチワークの如く、縫い目がわからないように丁寧に繋げていく。そこに個々の生によって生じた様々な性と愛の形——中に変質的なものや犯罪的なものもあったりする——が織り込まれている。
 やがて漱太郎が「おれが愛するように」愛している相手が明らかに——。悲劇的な結末を迎えることとともに、凄絶(せいぜつ)なる山田詠美アートもついに完成する。
 息継ぎさせないほど緊張感の高い小説だが、かといって、行間に流れている空気はどこまでも穏やかである。
 これこそが読者を引きつけて離さない魔力なのだろう。
    ◇
 講談社・1470円/やまだ・えいみ 59年生まれ。『A2Z』で読売文学賞、『風味絶佳』で谷崎潤一郎賞。

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