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フェア・ゲーム―アメリカ国家に裏切られた元CIA女性スパイの告白 [著]ヴァレリー・プレイム・ウィルソン

[評者]福岡伸一(青山学院大学教授・生物学)

[掲載]2012年01月08日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■イラク戦巡る米国の暗部暴く

 私がこの事件に最初に興味を持ったのは、数年前、新聞で見たヴァレリー・プレイムの姿だった。金髪をスカーフで覆い、女優のようなサングラスをしていた。小さな写真だったが硬質の存在感を放っていた。ほんとうに美人スパイがいるのだ。そう思った。
 本書は、彼女自身によるプレイム事件の記録。彼女は米中央情報局(CIA)諜報(ちょうほう)員。時は9・11直後。イラクが隠し持つ大量破壊兵器の証拠をつかもうとしていた。それは好戦的なブッシュ政権が最も求める戦争の大義だった。彼女は仕事の内容を、家族にも友人にも一切話すことができない。
 彼女の夫、ジョセフ・ウィルソンは米国の元駐ガボン大使。政府からの依頼で、現地を調査し、イラクがニジェールからウランを極秘に買い付けている噂(うわさ)を否定する報告をした。しかし2003年3月、ブッシュはイラクへ侵攻。怒ったジョセフはニューヨーク・タイムズに投稿を決意した。「アフリカで私が見つけなかったもの」。開戦の正当性を揺るがしかねないこの動きに政権は過敏、かつ陰湿に反応した。政治コラムニスト、ロバート・ノバクを使い、妻がCIA局員であることを実名暴露した。ジョセフの中立性を失墜させるため。
 美人スパイはたちまちメディアの餌食となり、正義のために行った行為が逆に夫婦を翻弄(ほんろう)し危機を招く。プレイムは幼い双子の母でもある。一方、政権側も無傷ではいられなかった。CIA機密の漏洩(ろうえい)は犯罪である。捜査が始まり、大統領近くにまで迫る。
 当初、私が疑問だったのはリーク記事の筆者、ノバクが逃げおおせたことだったが、一読それも氷解した。各ページ、CIA検閲のため、生々しい墨塗りがある。本書を元にした同名の映画もよい(ナオミ・ワッツとショーン・ペンが本物そっくり)。題名は、“恰好(かっこう)の餌食”の意。米国の暗部を照射した好著。
    ◇
 高山祥子訳、ブックマン社・1800円/Valerie Plame Wilson 63年生まれ。既にCIAは退職。

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