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人道的帝国主義―民主国家アメリカの偽善と反戦平和運動の実像 [著]ジャン・ブリクモン

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2012年01月08日

[ジャンル]人文

表紙画像

■論理的な批判、切れ味も鋭く

 本書を読み進むうちに、すぐに気づくことがある。とにかく自らの論を説明するのに、これには二つの見方があるとか、明確にすべき三つの点があるとかいった具合の記述が多いのだ。著者はベルギーの理論物理学者という。なるほど説明が論理的で整合性が尊ばれている。もう一つは、歴史の空間を自在に走り回り、アメリカの政治、外交のもつドグマと進歩主義者、エコロジスト、平和運動家の論理に、徹底したメスを入れていることだ。著者は人権主義左派との立場だそうだが、それゆえか、そのメスの切れ味には驚かされる。
 「本書の目的は思想戦を行うこと」「(帝国主義とは)第三世界における西欧の植民地政策、新植民地政策を指す」など自らの立場を明確にしつつ、アメリカ軍の人道目的での各国への介入に批判を加える。その批判は、「一言で済む」と言い、「軍隊の目的は最良のケースで自国を守ること、さもなければ他国を攻撃することに尽きる」と応じれば良いというのだ。他国民を助けるなどというのは偽善、虚構と激しく断じる。
 当然ながら人権についても独自の見方を示す。西欧の過去と第三世界の現在との不均衡こそ考慮すべきで、「植民地主義」と「移民」はこの不均衡の象徴なのである。近年の西欧社会の反戦デモが掲げる「…でも…でもなく」というスローガンの道徳的不健全さこそ問題だと軽蔑気味に論じる。断定詞の頻度が高い。
 こうした論調に、時に頁(ページ)を止めて思考を整理する必要もある。それでも読み通せるのは、著者の主張を支持するノーム・チョムスキーの鋭い分析の緒言や、文中に過剰なほど挿入されている現代を論じた知識人やメディアの原文が論点を補完しているためだ。
 ソ連崩壊後の一元化社会を通じて、歴史の「現在」を透視させてくれる。人道的と帝国主義という相反する語の結合は読者への快い挑戦である。
    ◇
 菊地昌実訳、新評論・3360円/Jean Bricmont 52年生まれ。ルーヴァン大教授。共著に『「知」の欺瞞』。

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