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さよなら! 僕らのソニー [著]立石泰則

[評者]後藤正治(ノンフィクション作家)

[掲載]2012年01月08日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■琴線に触れるモノ作りは片隅へ

 本書を読了して、仕事場に置いてある電気製品のメーカー名を見直してみると、ラジオ、ステレオコンポ、ICレコーダーなどがソニー製であった。ラジオは随分と古いが、これ以前も含め、ソニー以外使ったことはないと思う。著者と同様、評者も「技術のソニー」の信仰者であったことを知る。
 本書は、近年、ソニーの技術部門の力量が低下し、グローバル企業へと巨大化するなかでの空洞化を、経営トップの志向をたどるなかで追跡している。
 敗戦から間もなく、井深大と盛田昭夫の技術者コンビが東京通信工業を立ち上げた。零細ではあったが、「モノ作り」の志は高かった。テープレコーダー、トランジスタラジオを皮切りに、ウォークマン、CDプレーヤーなどオリジナル製品を次々に開発、「世界のソニー」へと歩を進めていく。
 創業者世代が退き、トップは出井伸之へ、さらにストリンガーへとバトンタッチされる。映画へ、音楽へ、さらには銀行・損保・証券へと進出してグループは肥大していくが、中枢のエレクトロニクス分野でのヒット商品があまり生まれない。テレビ部門はずっと赤字が続き、優秀な技術者たちの流出も止まらない。
 創業の精神を失いつつある経営方式に著者の目線は厳しい。もうかる領域に特化したネットワーク的な展開がグローバル経営の内実だと指摘する。それなしに巨大グループを維持することができない。この路線の上では「ときめき」や「琴線に触れる」モノ作りは片隅へと追いやられていくのは必然だ。
 さらに連想は走る。オジサン世代の実感としていえば、テレビの大型、薄型、細密画像化が進んでいるが、もはやそのことに夢を感じることはできなくなっている。ソニーの変容は、モノへの夢が消えつつある現代におけるメーカーの困難さも伝えている。
    ◇
 文春新書・872円/たていし・やすのり 50年生まれ。ノンフィクション作家。『ソニーと松下』『ふたつの西武』など。

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