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旅人は死なない [著]リシャール・コラス

[評者]楊逸(作家)

[掲載]2012年01月15日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■孤独求め、クールな語り口19編

 「広い世界をひとりでさまようのは、さみしくないのかい?」
 「ええ、もちろん。さみしいからこそ、ひとりで旅するんです……」
 本書の表題作になった物語の中の会話である。著者の地声が耳から入って心にまで響くような気もしてしまう。19のストーリーからなるこの短編集は、旅人物語というよりは、旅人感覚作品と言った方がふさわしいかもしれない。時代も国籍も異なる主人公がいずれも孤独を求めるかのように、果敢に日常のしがらみから脱出し、不思議な体験をする。
 淡々としたクールな語り口の一方、眼差(まなざ)しはどこまでも繊細で人懐っこい。「橋の上のローズ」の一編では、アメリカ人の夫を失った日本人女性ローズを描いている。緑茶、備前焼の茶道具、樟脳(しょうのう)臭い着物、扇子、べっこうの髪飾り……、これらを手にする時の肌感覚によって、ローズは「しのぶ」と呼ばれていた頃の自分を蘇(よみがえ)らせて、うっとりする。
 シャネル日本法人代表取締役社長でもある著者は日本文化への体験とセンスをもって、主人公の幸せであるはずの異国での人生に隠されていた孤独感を、見事に浮き上がらせて見せた。
 人生つまり旅。旅とは「車輪は回る」が如(ごと)く、孤独を紛らわしつつも孤独をもとめてするものなのではなかろうか。ひょんなことで出会った男女が、一緒に旅に出る。道中で愛を育み、やがて旅が終わり、別れもやってくる。めそめそもドロドロもなく、引き摺(ず)っているのは思いと余韻だけというような関係。一見あっさりしすぎるようでも、それだけに堪え難い気持ちが一層強く伝わってくる。
 同じ孤独でも本書の「旅人」のそれは、独特な味わいがあり、憧れてしまうほど格好いいものだ。広い世界だからこそ一人で彷徨(さまよ)う(旅をする)のだ。
    ◇
 堀内ゆかり訳、集英社・1680円/Richard Collasse 53年生まれ。95年からシャネル日本法人社長。

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