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怒れ!憤れ! [著]ステファン・エセル

[評者]石川直樹(写真家・作家)

[掲載]2012年01月15日

[ジャンル]社会

表紙画像

■不正義に個人として立ち向かえ

 著者はレジスタンス運動の活動家であり、ナチスに抵抗し続けた自由フランス軍の兵士だった男で、現在は94歳である。強制収容所に送られて処刑される寸前に脱走し、後に外交官となって、国連の世界人権宣言起草に参加した。その彼が若き日を振り返り、不正義が横行する世界を憂(うれ)いながら、「怒りを持って行動せよ」と若者に訴える。
 欧米でベストセラーとなった原書は、わずか32ページのパンフレットのような本だった。貧富の格差、移民と人権の問題など、語られる内容は決して目新しいものではないのだが、強固でありながら柔らかい意思を持ち合わせるエセルの、芯の通った生き様を垣間見ることはできる。特にパレスチナ問題にページが割かれており、ユダヤ人の彼がイスラエルのやり方に理路整然と異を唱えるさまは一定の説得力と共に読者の胸を打つ。
 日本語版の表紙カバーで、エセルはサルトルのこんな発言を引いている。「君には、神に対してではなく、党に対してでもなく、個人としての責任がある。君は君の道を見つけて、それに従わなければならない」。権力や神に頼るのではなく、一個人としての責任で行動しなければならないという彼の意思は、以下の一節にも表れている。「よい人間であること、あるいはよいことをすることなど、どうでもよかった。意味のある人生、責任のある人生を送ることが重要だったのだ」
 本書の冒頭に、パウル・クレーの〈新しい天使〉が提示されている。絵の所有者で亡命中に亡くなったドイツの思想家ベンヤミンは、エセルの父と親しかった。瓦礫(がれき)の山から吹き付ける嵐に抗(あらが)って必死に両手を広げる天使は、震災後の日常を生きる私たちにも迫ってくる。怒り憤ること、それは単なる感情の問題ではない。怒りの対象に自ら挑む意思を持って目を見開けば、その先に一瞬でも光が見えるとぼくは信じている。
    ◇
 村井章子訳、日経BP社・840円/Stephane Hessel 17年生まれ。元レジスタンス活動家。元仏外交官。

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