書評・最新書評

執事とメイドの裏表―イギリス文化における使用人のイメージ [著]新井潤美

[評者]楊逸(作家)

[掲載]2012年01月22日

[ジャンル]歴史 社会

表紙画像

■文芸作品に探る階級社会の文化

 昨年、「家政婦のミタ」というドラマが大ヒットしたようだ。見ていなかったのが残念だが、宣伝ポスターに写った主人公の無表情な顔を眺めると、古いイギリス映画によく見る「厳しくて威厳がある」「家政婦」をついつい思い浮かべてしまう。
 家政婦の仕事というと、日本では掃除、洗濯、炊事、おそらく主人の靴磨きのようなことも含むかもしれない。かつて階級社会であったイギリスでは、日本と違ってその内容が細かく分けられ、それぞれの役割に応じた呼び方をしていたものだった。
 執事はワインの管理をはじめ、エールやビールを作り、ひびの入ったグラスを修理するほか、食器管理、食卓の用意などが主な仕事であった。そして映画でおなじみの怖いおばさん「家政婦」は、ハウスキーパーと呼ばれ、使用人の多いお屋敷ではメイド総監督という管理職であり、そうでない家では、主人の世話をするというものだ。
 キッチンは料理人の居場所だし、メイドにも、キッチンメイド、パーラーメイド、ハウスメイド、ナーサリーメイド、ランドリーメイドなどの種類がある。
 フランス革命時にイギリスに逃げて料理人として働くフランス人が、「情緒不安定で、感情的で、気まぐれ」で扱うに手を焼く芸術家気質であるにもかかわらず大人気になり、引き抜かれないように、雇い主は常に神経を使っていた例もあるとか。
 更に表仕事の多い下男は、身長ときれいな脚が必須条件であり、従僕の多くは主人よりも知性と教養とが備わっていて、「紳士つき紳士」とも呼ばれたという。そもそも主人たるイギリス紳士とは、ワーキングクラスの乳母によって育てられたのである。
 本書は多くの文芸作品を引き合わせ、使用人文化を通して、近代イギリス社会を浮き上がらせた。大変面白く興味深い一冊だ。
    ◇
白水社・2100円/あらい・めぐみ 中央大学教授。比較文学・比較文化専攻。『自負と偏見のイギリス文化』など。

関連記事

ページトップへ戻る