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平等と効率の福祉革命―新しい女性の役割 [著]イエスタ・エスピン=アンデルセン

[評者]山形浩生(評論家)

[掲載]2012年01月29日

[ジャンル]社会

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■豊富な裏付けから子育て支援を提言

 福祉の議論は公共頼みになりがちだ。医療も高齢者も育児も失業も国がもっと金を出せ——。でも、家庭や企業も福祉をかなり提供している。そのバランスを見ないとだめだ、と看破したのが本書の著者エスピン=アンデルセンだった。きたる高福祉社会に向けて、彼は女性をもっと働かせろと主張した。福祉サービス職を増やし(企業の事業機会)、女性を働かせ(家計収入増大)、税収を増やせ(公共の負担力増大)!
 この分析と提言は大きな影響を与えた。そして女性の労働進出は進んだ。でもまだ中途半端な水準だ。一方であらゆる社会では格差の固定化と拡大が進んでいる。なぜだろう?
 本書はこの問題に取り組む。そしてまたもや明快な答えを出す。家庭の育児を支援しろ、と。
 女性が働きやすいよう保育園の整備を、というだけではない。児童の知的発達は赤ん坊の頃に相当決まってしまう。その時期に親が育児に時間と資源を投資しないと、学業面でも所得面でもハンデを強いられる。ところが低学歴で低所得の世帯は雇用も不安定だし、慣習からも育児に投資しない/できず、その子供も低学歴・低所得になる。似た者同士の結婚でそれがさらに強化されてしまう。これが現在の格差固定と拡大の一因だ、と著者はいう。
 だったら、家庭の育児改善に公共がもっと投資しよう。ホントは赤ん坊を全部取り上げて国が平等に育てたいところだが、そうもいかない。だったら所得支援、育児補助、就学前教育の充実などにもっと投資すべきだ。それは女性の社会進出のみならず、経済全体の人材底上げにもつながり、高齢化社会の課題への取り組みも容易にする!
 議論はすべて統計的な裏付けを持ち、また経済学や脳科学的な発達論の成果も取り入れて、堅実ながらもきわめて斬新。また評者のような素人の驚く指摘も多い。高福祉とされる北欧諸国は、その分だけ税金で取られるので実は見た目ほど高福祉でないなど。
 そしてもちろん、この提案は即座に政策的な意味を持つ。本書の議論からすれば、あの子ども手当も趣旨としては意義を出せる。些末(さまつ)な名称変更にうつつを抜かしている場合ではないのだ。
 監訳者らの解題は、日本女性の低い社会進出状況については詳しいが、本書の議論の核心にほとんど触れず不満。本書は今後の社会における経済と福祉のバランスを実証的に構想した希有(けう)な本であり、その意義は女性問題をはるかに超えるのだ。少々専門的ながら、学者にとどまらず政策立案者や関心ある一般人も是非手にとって明日の社会像を考えてほしい。
    ◇
大沢真理監訳、岩波書店・3990円/Gφsta Esping−Andersen 47年デンマーク生まれ。スペインのポンペウ・ファブラ大学教授。専門は福祉国家論、比較社会政策論。『福祉資本主義の三つの世界』『ポスト工業経済の社会的基礎』など。

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